短編集 ちょっぴり異世界

はじまりの終わり 2

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「その言葉、聞かせてやるか?」
「誰に、ですの?」
 厳しい声音に、カティアも負けず顎をそらし言い返した。
 こうして直接目を合わせただけでも身を正されるようで、思わずひれ伏したくなる威厳がグリフォンにはあった。
 父王が信頼するだけあって、ただの傭兵ではないのだと直感する。
 高慢に見えるのはわかっていたが、身長差があるのでどうしてもツンと顎を上向ける形になる。

 なぜか、負けたくない、と思っていた。
 何に負けたくないのかはよくわからなかったけれど。
 ただ、ハイハイと簡単にうなずいてしまうと、足元から大事な何かが崩れ落ちてしまうようで怖かったのだ。
 ついさっきまで確かに暮らしていた城のように、何もかもなくなってしまいそうで。

 カティアの精一杯の虚勢を知ってか知らずか、グリフォンの返答は切り捨てるような鋭い物だった。
「お前の父母と、お前の身代わりになった侍女だ」
 ハッとしたようにカティアは口をつぐんだ。
 ここ数日、部屋付きの侍女も見習いにはまだ早いような歳若い者が一人は必ず付き添っていたのは、このためだったのだ。
 三歳年上の部屋付きの侍女は突然の襲撃と近づいてくる惨状に震えながらも、カティアにドレスや外套を着付けると脱がせた夜着を当然のようにまとった。
 グリフォンにカティアを任せると、どうかご無事で、と小さく告げて儚く笑い、城の奥へと駆けだしたのだ。
 そう言えば城内を抜ける間にすれ違った者たちも、覚悟は決めた表情をして狂乱してはいなかった。
 恐らく、どう行動するか申し合わせていたのだ。

 知らなかったのはカティアただ一人。
 成人を迎えていないただ一人の子供だからか、世継ぎにならない女の身だからか、理由はわからないが、カティアだけ今夜の予兆を知らされていなかった。

 それが悔しかった。
 キリ、と唇をかみしめたカティアは振り返り、燃える王城に眼差しを投げた。
 今日、この時を絶対に忘れない。
 この悔しさを一生忘れないと誓った。

 ポン、と大きな手が頭の上に置かれた。
 ごつい革手袋ごしでも、なぜかその手は暖かった。
 思わず膝が崩れそうになり、泣く時ではないと自らに戒めるほど、暖かい手だった。

「あの城は古い遺跡の上に立っている。隠れた抜け道を知るものは少ない。お前の父は相当な策士だが、側に控えた守護騎士は更にぬかりのない男だ。簡単に死ぬとは思えんがな」
 武骨だけど誠実な男だ、とカティアは思った。
 少しだけやわらかな慰める口調が、奥深くにある優しさを物語っている。

 深く息をつく。
 カティアは考えた。
 なぜ、父がこの男に自分を託したのかを。

 その答えはすぐに出る。
 国や身分にとらわれず、カティア自身の命を生きろ、ということなのだ。
 チラリ、とグリフォンを盗み見る。
 この人は廃国の姫という立場を秘する力量があり、もしも素性が公になっても政治的な道具として扱えないだけの力を持つ後ろ盾。
 父母の生死はわからない。だが、両親と同等の信用を置ける相手だから、とにかくどんな手を使ってでもこの男の側にいろということだ。
 得体が知れないという基本は変わらないが、父の思惑に想いを馳せながらもカティアは眉根を寄せた。
 パッと見にはその辺にいるその他大勢の傭兵となんら変わらないのに。

 この男、何者だろう?
 
「もしも……もしも薄情者たちに聞かせることができるのならば、何度だって言いますわ」
 恐らく父王は後ろ盾になれとまでは伝えていないはずだと思いながら、グリフォンを見上げた。
 過去に命の貸し借りのあった仲でなければ、この男は他国の有事には動かなかっただろう。
 生かす、と言ったことを考えれば城から落ちのびて安全な場所にかくまうことを前提にしているはず。
 この男に後ろ盾の交渉をするのは、カティア自身の能力にかかっている。
 父はカティアをただの幼い子供として扱っていないのだと、グリフォンの眼差しに思った。
 義理や情けだけで動く相手ではない。
 相手が誰であっても負けませんわ、とカティアは思いながら軽く唇を舐める。
 サファイアのような青い瞳が、意志の炎に揺れながら闇にきらめいた。



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