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 ←ただ、その笑顔を見たかった 前編 【テーマ:隣人】 →特別な日
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短編集 恋の卵

ただ、その笑顔を見たかった 後編

 ←ただ、その笑顔を見たかった 前編 【テーマ:隣人】 →特別な日
 進展といえる進展はない。
だけど、少しづつ彼女のことはわかってきた。
 たとえば彼女の名字とか、同じ年齢だとか、ブティックの店員さんだとか、初めて言葉を交わした日に彼氏に振られてフリーになったとか、色々と。

 彼女は饒舌ではないけれど、無口でもない。
 大人しくもないし、快活でもないけれど、屈託ない感じでよく笑う子だった。
 意外といってはなんなのだがかなり意地っ張りなので、そうそう簡単に弱ってるところを見せたりしない。

 彼女が泣いているのは、二度目だ。
 これで気にならないほうがおかしい。

 俺はベランダに出て、彼女に声をかけた。
「なに、また泣いてるの?」
 すぐに、返事が返ってきた。
「または余計」
 想像していたよりも、かぼそい声だった。
 相変わらず憎まれ口は叩いているけれど、いつもと違って覇気がない。
 初めて会話を交わした日に、遠慮なく泣いていたことを彼女は恥だと思っているらしい。
 あの日のことをにおわすととたんにムキになるのに、今日は語尾が涙で溶けている。

「まただろ? 心霊現象かもなんて、もう間違えないけどな」
 ハハッと俺が笑うと、ズズッと軽く鼻をすする音がした。
「あのときは特別」
「なら、俺って特別に当たりやすいんだ」
 ラッキーだなぁと続けたら、彼女は本気でムッとしたらしい。
 
「なによ、宝くじみたいな言い方しないで」
「似たような物だろ?」
「似てない」
「また振られたの?」
 なんて余計なことをつけたしたら、グッと彼女は言葉を飲み込んだ。
 おお、ビンゴ!
 というか、いつの間に新しい相手を見つけてたんだろう?
「違うわよ。元彼により戻そうって言われたの。でも、今更なによって問い詰めたらオタオタしちゃて、次までのつなぎにするつもりだったって最低な話。私から振ってやったのよ~ほっといて」

 あいかわらずツンツンととがった台詞を吐くけれど、どこか甘えたような口調が耳にくすぐったい。
 きっと悲しいとか辛いとか傷ついたとかそういう心境なのだろうけど、彼女は悔しいとかもっといい男を見つけてやるとか、何やら憤慨しているような台詞ばかり選んでいる。
 相変わらずだな~気持ちと口から出てくる言葉が、マッチしてないぞ。
 どうしてこんなに素直じゃないんだろう?
 そこが面白くてかわいいなんて思う、俺も俺だが。
 もう少し、近づいてもいいだろうか?
 なんて、甘いことを考えたりする。
 お隣さんなんて、近づけそうで近づけない他人の代表なのに。
 彼女といると、もう少し、と思う瞬間が増えてくる。
「まぁいいか」
 ついそうつぶやいたら、彼女は誤解したみたいだった。

「よくないでしょ? さっさと中に入ったら?」
 別に彼女が泣いてることについて言った訳でもないのに、バカ、なんて露骨に追い払おうとする。
 振られてよかったな~なんて思ってない……訳でもないか。
 おお、口には出せないが、いいことだと思っている俺がいた。
 今の状況は宝くじよりラッキーだぞ、なんて自分の感情に正直でなにが悪い。
「いいの。お隣さんのよしみでここにいる」
「よけいに危ない」
 ポンポンと返ってくるセリフの連続に、俺はハハッと笑ってしまう。
 気が強そうなことを言っている割に、グズグズに壊れた涙声だったから。
 そんなに無理してつくろわなくてもいいのに。

 こういうときは、一歩ぐらい前に進んでもいいよな?
 弱っている時につけこまなければ、彼女に詰め寄る機会は永遠に来ない。

「俺、危ない奴になってもいいんだ? 名前、教えてよ」
 俺の名前はね、と続けると、彼女は少し黙った。
 あ、考えている。
 ずうずうしいとか思っているのだろうけど、それほど不快に思っていないのがわかる沈黙だった。

 しばらくして帰ってきたのは、あきれたような声。
「……バカ!」
 ハハッと俺は笑った。
バカ、なんて悪態が可愛いなんて。
 まいったな~やっぱり彼女にはまってるみたいだ。
「バカだよ。いいんだ。だいたい、ベランダ越しになにができるっての?」

 そう、泣いてる彼女を前にしても、何もできない。
 背中をさすってやることも、大丈夫だって抱きしめてやることも。
 何一つできやしない。
 涙がおさまるまでここにいることぐらいしか、できないんだ。
 薄い壁一枚で隔たれた、まともに顔も見れないベランダ越し。
 その距離感はもどかしいけれど、ほんの少しだけ心地いい。
 ああでも、嗚咽は途切れた。

 しばらく彼女は無言だったけれど、ガタガタと大きな音がした。
 お互いのベランダを隔てている板がスライドして、猫が通れるぐらいの隙間ができる。
 人間は通り抜けられない幅だが、そこからニュッと白くて細い手が伸びてきた。
 缶ビールが一本。
 水滴がまとわりついたそれを、俺は無言で受け取った。
 古いっていいわね、となんでもないことのように言って、彼女はもう一本の缶ビールを開けている。

 この壁、壊れてたんだ。知らなかった。
 俺が本気で力を込めれば、完全に取り外せるに違いない。
 彼女を見ると涙でぬれている瞳が、薄明かりの中でジワリと浮き上がって見えた。
 ほのかに微笑んでいるけれど、やっぱり涙が今にもあふれそうな頼りない表情だった。
 初めて間近で見る彼女は大きな瞳がとてもかわいいけれど、やっぱり壁一枚を隔てた微妙な距離感があった。

 ああ、でも。今の俺たちには、ピッタリの距離感だろう。
 彼女から空へと、俺は視線を移した。
 部屋の電気をつけたままだから星はあまり見えないけれど、それでも静かな夜だった。

「ここにいるから、気が済むまで泣いてもいいよ」
 空を見たままそういうと、彼女はしばらく無言だった。
 バ~カ、と非常にかわいくない言葉を小さくもらしたけれど、そのまま嗚咽を押し殺すようにして泣いているようだった。

 俺も缶ビールを開けて、口をつける。
 少しぬるんでいるそれはほろ苦くて、喉の奥で泡が小さくはじけた。
 どこかいたずらっぽいはじけ方をしているけれど、あふれる炭酸は止められない。
 軽ければ軽い感覚を残すほど、ほろ苦く感じる。

 彼女の涙も、こんな味なのだろうか?

 ビールみたいに、簡単に飲み干せたらいいのにな。
 詩人みたいな感傷を抱いていたら、ねぇ、と彼女が俺を呼んだ。
 ゆっくりと声の方を見ると、彼女も隙間から俺を見ていた。。
 
「私が泣きやんでも、すぐには行かないで」
 自分の名前を告げて、彼女は笑った。
 硬い蕾がふわりとほどけ、花がほころぶようだ。
 俺はうなずいて、笑い返した。
 ほら、やっぱり屈託なく笑えるじゃないか。
 
 はじめましてのその日から。
 ただ、その笑顔を見たかったんだ。


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