短編集 ちょっぴり異世界

右手に銃を 左手に愛を 3

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 カラン、と扉の鈴が鳴った。
 一人の中年男が入ってきた。
 どこからどう見ても観光客そのものの洒落た服装をしているうえに、視線がオドオドとしてどこか挙動不審である。
「あら、悪いけど今は準備中よ。おまけに今日は貸し切りなの」
 膝の上に抱いていたアリスを床に下ろすと、ルヴィはコツコツとヒールを慣らして歩み寄り、さぁ! と扉を開けた。
「お帰りはこちら。異国の紳士が、こんな裏の居酒屋に入ってくるものじゃないわ」

 微笑みは鮮やかでも痛烈な皮肉交じりの言葉に、ヒクッと中年男は顔をひきつらせた。
「俺は客じゃない!」
 まぁ、とルヴィは派手に驚いてみせた。
「あら、よけいにお呼びじゃないわね。ご用件は?」
 スラリとした長身でハイヒールをはいたルヴィから、見下ろす位置で軽蔑の眼差しを向けられ、中年男は薄くなった髪の毛を気にするように頭を押さえた。
 チョロリと生えた頭頂部分に、ふうっと息を吹きかけられたのがショックだったようだ。

「俺はハーディだ。盗んだ時計を返してもらおうか」
 精一杯の虚勢を張って胸をそらすので、店内からクツクツと遠慮のない笑いがあふれた。
 どうやらこの国に不慣れな珍客がやって来たようだった。
 返せと言われて返すバカはいない。
 懐から抜かれてすぐに気がつかないの奴が間抜けなのだ。

 嘲笑されているのがわかって、ハーディはカッと顔を赤らめた。
「こんなふざけたモノを懐に入れやがって!」
 ピラリと出された紙には、へたくそな子供の字で「いただきます」というメッセージとウサギの絵が書いてあった。
 よく見れば、この店のメニュー表の書き損じの紙を再利用している。
 店内にいる者は顔を見合わせて、プッと吹き出した。
 誰の仕業かわかったのだ。

 ぎくしゃくとしたカニ歩きで壁伝いに移動し、アリスが常連客のテーブルの陰へと移動する。
 コソコソと隠れている少女の姿に、幸いハーディは気がつかなかった。
 ただ、笑いが店内にジワジワと広がっていくので、頭に血を上らせる。
「俺のことをバカにする気か? え?」
 ゆでダコみたいなその顔に、全員が我慢できなくなってしまい、傑作だと腹を抱えてゲラゲラと笑いだした。
 子供に懐から懐中時計を抜かれた間抜けにしか見えないので、その笑いも容赦がなかった。


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~ Comment ~

NoTitle 

>チョロリと生えた頭頂部分

ぁぁ・・ 理科の先生ッッ!! (チガイマスw)

ダメダメッ!! ツボすぎるッッww

Re: NoTitle 

私の学生時代は数学の先生だったww←コラ;
頭頂部ほど大事なのです!
もちろん、横から必死で伸ばした髪を、一生懸命バーコードにしている人も健気だと思いますw
フーッとして、がんばってるねってナデナデしてあげたい……しないけど。
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