短編集 ちょっぴり異世界

道きり 最終話

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 目が覚めると、病院だった。
 思わず身体を確かめた。
 アパートの前で転んだ傷以外は、ケガもないようだった。
 俺は何度も額や頭を確かめた。
 確かに敦志だった鬼の爪は、俺の脳天を割ったと思ったのに。
 ケガ一つないことはありがたかったけれど、釈然としない。

 わからないことばかりだった。
 俺は自分のアパートの前で倒れているのを同じアパートの住人に発見され、救急車で病院に運ばれたらしい。
 三日もの間、気を失った状態で寝ていたことに、驚きを隠せなかった。
「道きりが……敦志が……」
 などと、うわごとのように繰り返していたと、看護師から聞いた。

 敦志は。
 敦志は、行方不明になっていた。

 俺が目を覚ましてすぐに、警察に事情を聞かれた。
 当然だ。
 講義を終えて一緒に門を出たのは、たくさんの人が見ている。
 敦志が消え、俺がアパートの前に倒れていた。
 それだけで十分センセーショナルな出来事だろう。

 俺は、何も言えなかった。
 敦志は鬼になったとか、道きりに出会ったとか、ましてや軌道に足を踏み入れ鬼に堕ちたなんて。
 誰が信じてくれるんだ?
 実際に体験した俺自身が、信じられないってのに。

 敦志とは帰宅途中で別れたことにした。
 俺が倒れたのも、高熱のせいにされていたので、ちょうどよかった。
 妙な場所に踏み込んだせいか、今も熱っぽい。
 言い訳なんて考えなくてもよかった。
 朦朧としていたので、何も覚えていないで押し通せたし、周りも勝手にそれを信じた。
 気を失っている間の俺のうわごとも、熱に浮かされてみた幻影にしてもらえていたし。
 そんなもんだ。

 一人で病院のベッドに寝転びながら、ふと思いだした。
 俺は何故、助かったのだろう?
 一つだけ、その理由に心当たりが思い浮かんだのだ。

 保護された時に来ていたシャツを探しだし、その胸ポケットを探った。
 あった。
 取り出して、やっぱりと思った。
 柚香さんにもらったお守りは、真っ黒に焼け焦げていた。

 これのおかげだ。
 お守りを持っていたから、助かったのだ。
 二個も身につけることになったのはほんの偶然だけど、これがなかったならと嫌な想定をしてしまい、ゾクリとするしかなかった。

 敦志は、どうなったんだろう?

 その問いに答えてくれそうな人物は、俺が退院する日にやってきた。
「柚香さん、ちょうどよかった。会いに行こうと思ってたんだ」
 ニコリと柚香さんは微笑んだ。
 あいかわらずクールな微笑みだったけれど、見なれた表情だったのでホッとした。

「この後の予定は?」
 意外な問いかけだったから、ついいつもの三倍増しで瞬きしてしまった。
 もしかして、どこかに誘われているのだろうか?
「特にない。まぁ、もともと検査だけだったし。熱も寒空で寝たせいだから、今はもう落ち着いた」
「そう」
 ポツン、と柚香さんのうなずきは、寂しげに床まで落ちた。

 しばらくは何かをためらっているようだったけれど、思いきった表情で柚香さんは俺を見た。
 まっすぐな瞳に、俺は内心ドキリとした。
 なにもかも、見透かされているような、透明感があった。
「そう、鬼気にあてられたせいかもしれないけどね」

 ギクリとするしかない。
 敦志に乗せられただけとはいえ、あれほどやめろと言われた道きりに踏み込んだあげく、やってはいけないと忠告されていた行動を、自分からとってしまったのだ。
 軽蔑されるだけではなく、怒られても仕方のないことだ。

 ビクビクしている俺の前で、ふわっと柚香さんは微笑んだ。
 切ないような、悲しいような表情だった。
 柚香さんは、何か知っているのだろうか?

「供養に、付き合ってもらえないかしら?」
 しばらく言葉を探している顔の後で出てきた台詞に、俺は驚いてしまう。
「供養? 誰の?」
 誰か、死んだのか?
 まさか、と嫌な予感が頭の隅に沸いて、否定してほしかったのに柚香さんはあっさりと俺の希望を打ち砕いた。
「敦志君」

 嘘だ、と言いかけた俺の前に、柚香さんはスッとスマホを差し出した。
 ボロボロだった。
 だけど、キーホルダーには見覚えがあった。
「それ、あいつの……」
 やっぱり、と言うべきなのか。
 そんなバカな、と言うべきなのか。
 俺にはわからなかった。

「もう、あそこには道きりは現れないわ」
 呆然としている俺に、柚香さんはそっとそう言った。
 眼差しは、壊れたスマホに注がれたままだけどな。

「柚香さんが、塞いだのか?」
「まさか。人でないモノに関われるのは、同じく人ではないモノだけ。それこそ、鬼か神の領分ね」
 俺の妙な質問に、柚香さんはサラリと答えた。
 せっかく答えてもらっても、意味がよくわからないのは残念だけど。

「柚香さんは、何が起こったのか、知っているのか?」
 もしかしたらものすごい力を持っている巫女さんかもなんて俺のバカな想像は、数秒も待たずにキッパリと否定された。
「知らないわ。私はただ、頼まれただけよ」
「頼まれた?」

 更によくわからない返事だったので、オウム返ししてしまう。
 何が何だか理解できていない俺から視線を外し、柚香さんは窓の外を見た。
 ここは五階だから空しか見えないはずだ。
 それでも、確かに形のある何かを見ているようだった。
 何を見ているのだろう?

 更なる問いかけが口から飛び出す前に、ポツン、と柚香さんはつぶやいた。
「暗闇に飲み込まれた人を供養してやってくれと、人の不埒な好奇心を許す存在に頼まれたのよ。供養は、人の領分だからって」

「それって一体……?」
 とにかく教えてほしくて突っ込みまくる俺に、柚香さんはクスリと笑った。

 微笑みを浮かべていたけれど、その眼差しは氷よりも冷たい。
「すぎた好奇心は身を滅ぼす元よ。あなたも、私も、ね」

 それ以上、俺は何も聞けなくなる。
 追求しようとしたら、南極のブリザードよりも寒い方向に話しが転がりそうで怖かった。
 うん、これ以上はやめよう。忘れ去るのが一番かも。
 ただ、不可思議な現象に関わるのは、不可思議で理論では説明できない存在なのだろうと、ぼんやりと思った。

 * * * * *

 退院したその足で、俺は敦志の供養に付き合う。
 俺と柚香さんは肩を並べて歩いた。
 初めて二人きりになったのに、まさか、供養へ向かう道行とは。
 二人して言葉数が少なくなるのも、当たり前のことだ。
 しかし、嫌な沈黙ではなかった。
 あえて気になることをあげるとすれば、行き先だろう。
 お寺ではなく、神社へ向かうのは、俺としては違和感がある。
 道きりは、神の領分だからという柚香さんの言葉に、反論する気はなかったけどな。

 空を見ると、青い空が広がっていた。
 綺麗だった。
 透きとおったその広さに目を奪われていたら、風が頬をなでて行った。
 そのいたずらな感じは敦志の笑い声に似ていて、俺は泣きたくなった。

 今。
 確かに、弔いの風が吹いた。

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最後までお付き合いありがとうございました!
ちょっとオチで謎を残しちゃったかな~と思いますが、また柚香さんを書ける機会があれば書きたいなぁ。

ホラーにちゃんとなっているといいんだけどw
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NoTitle 

怖いから続きを読んでしまう・・。
まさにホラーかと。(笑)
こうゆうお話は、少し謎を残しておいた方が
より怖いしね゚。(m´□`m)。゚

Re: NoTitle 

akoさん、最後までお付き合いしてくれてありがとう(*^_^*)♥
スッキリするようなしないような感じになったけど、怖がってくれたからいいや♪←オイ
ホラーって書いたことなかったから、ホラーっぽくなってたみたいでうれしいです///

NoTitle 

最終的に敦志は解放された、のかな?
私としては鬼のままで居てほしかったけれど(笑)
ホラーなら最後まで深い深い闇を残してほしいかなぁ、なんて。
とはいえ、ラストの空は良いですね。
椿さんらしい、清々しい描写で私は好きでした^^
更新お疲れ様でした! また別の作品読みますねぇ♪

Re: NoTitle 

こんばんは!

最後は、解放~になるのかな?
鬼になったら鬼になったままではあるけど、お守りの力で燃えあがり消滅したことにしてしまいました~細かい描写は飛んでしまったけど(*´-ω-)) ンム
本当は鬼退治が専門のイケメン(笑)とか出したかったけど、企画の文字数がオーバーしすぎそうなので、お守りを万能にしちゃいました。
怖い闇のままだと、私が夜中にトイレに行けなくなるし!←オイ

ホラー、難しいです。でも、また書いてみようかな~なんて思いましたw
いつもあったかい言葉をありがとう(*^_^*)
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