短編集 ちょっぴり異世界

道きり 第四話

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 ブルッと思わず震えてしまい、俺は腕を抱いた。
 よそう。よくないことは考えないに限る。
「とにかく引き返そう。どっかで道を間違えたんだ。夜通し迷子なんて御免だしな」
 視線を敦志に戻したが、そこには誰もいなかった。
「敦志?」
 名前を呼んでも、返事はない。
 俺は立ちつくすしかない。

 あたりはすでに闇に包まれているのに、なぜだか目の前にある祠だけはくっきり見えるのが、やたらに恐い。
 浮き上がって見えるなら、どんなによかっただろう?
 そこだけ、やたらに闇が濃いのだ。
「おい、敦志?」
 もう一度呼んでみたが、自分でも驚くほど声が震えてしまった。

 クク……ククククク……ククク……
 ひそめられた忍び笑いが、祠の方から聞こえてきた。
 それは、耳になれた敦志の声だった。

 少しだけ安堵する。
 敦志が祠の後ろに隠れて、俺を脅かそうとしているに違いない。
 まったくもう、人騒がせな奴だ。
「おい、脅かすなよ。さっさと帰ろうぜ」

 返事はなかった。
 俺の声に応えるのは、忍び笑いだけだ。
「ふざけるなよ。いい加減にしないと、俺だって怒るぞ」
 ククク……クク……アハハ……アハハハハハ……
 しだいに笑い声は大きくなっていく。

 俺は、ドキリとした。
 この声、祠の後ろからではなく、中から響いている気がする。
 傾いた扉は、猫ならともかく、人間は絶対にくぐれない大きさなのに。
 敦志は、敦志はどこだ?

 プッと勢いよく、祠の闇の中から何かが吐きだされた。
 まるで、スイカの種のような簡単さだった。
 チリンと音を立てて小さな輝く物が地面に転がったそれに、思わず視線を落とした。
 微妙につぶれた、金色の鈴。
 血に汚れていたけれど俺たちの前を歩いていた、あの猫の付けていた鈴だろう。

 なんで、血がついてるんだ?
 あの猫は?

 いや、そんなことよりも敦志だ。
 なんで姿が見えない?

 混乱する俺の周りで。
 いつの間にか笑い声は増えていった。
 祠の中からだけではなく、いつの間にか右や左からも、たくさんの声が俺を囲んで笑っていた。
 アーハッハッハッといたる方向から鳴り響く狂笑に、頭の中がガンガンしてくる。

 なんだこれ? なんなんだよ、これは?

 ガクガクと膝が震えたけど、俺は後ずさる。
 足が思い通りに動かず、ズル、ズルと引きずるようにしか下がれない。
 背中を見せる気にはなれなかった。

 だけど、不意に足が動かなくなる。
 嫌な予感を胸に、視線を落とした。
 足首に、闇がまとわりついていた。
 正確には、祠の影が。

 熱はなかった。
 厚みすらなかった。
 薄いペラペラした影が触手のように伸び、俺の足にグルリとからみついている。

「うわぁ!」
 恥も外聞もなくなった。
 なんだ、なんなんだこれは!
 放せ! と叫んでけとばしても爪先はスルリとすりぬけて、何の変化もない。
 グウッと持ちあがった真っ黒い影に、俺は硬く目を閉じて立ち尽くすことしかできない。

 そのとき。
 闇が、悲鳴を上げた。
 目を開けると、視界が白く光っていた。
 俺の身体から、影が、闇が退いていく。

 ふと、光が俺から発せられていることに気がついた。
 光のもとに、視線を落とす。
 コートのポケットだった。

 ここには確か。
 確か、敦志が捨てようとしていたお守りが。

 喉に張り付いていた悲鳴が、ようやく出た。
 自分の悲鳴なのに、やけに遠く感じたけれど、それどころではない。
 足が動く。
 ただ、それだけは確かだった。
 そして、俺は後ろも見ずに走りだす。
 とにかく一刻も早く、ここから遠ざかりたかった。

 背後から、狂笑だけが湧きだすように響いて、俺を追いかけてきた。

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~ Comment ~

NoTitle 

椿ちゃん・・。

ちゃんと怖いよッッ!!(m´□`m)  笑

でも、怖い話って
最後まで読まないともっと怖いから
読みだすと読んじゃうよねww

Re: NoTitle 

おお~ちゃんと怖くてよかった(笑)
そうなんです。怖い話、オチがわからないと余計に怖い(><;;
毛布かぶってブルブルしながら、エンディングまで見てしまいますw
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