「英雄のしつけかた」
第三章 死神と呼ばれる少年

第53話 死神 1

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 ミレーヌは目を開いた。
 汚い床に転がっていた。
 あら、とのんびりと首をひねる。
 嫌ですわ、何が起きたのかしら?

 空気がよどんでいるせいか鼻がむずむずして、クシュンとくしゃみをしてしまう。
 どうやら夢を見ている訳ではなさそうだった。

 ここはどこかしら?

 寝起きでボーっとしていたので、頭を悩ましたのもしばらくたってからだ。
 目に見える範囲には、埃の積もった床や薄汚い袋が積み上げられている。
 重厚な石作りの部屋だ。
 あまり使われていない様子で、造りからして砦や旧家の中にある倉庫だろうか?
 ミレーヌは起きあがろうとしたけれど両手は後ろにまわされて縛られているし、ずっと変な態勢でいたせいで身体が痛かった。

 あら嫌だと眉根を寄せて、見知らぬ少年に声をかけられたことを思い出す。
 あの子に誘拐されたとしか思えない。
 荒んで壊れそうな眼をしていても、悪いことをするようには見えなかったのに。
 あてもなくさすらっているのかと思っていたけれど。
 こんな建物に連れてこられるとは、悪い人たちに騙されているのではないかしら?
 ひどい人たちがいたものだわ。
 子供を騙すなんてと憤慨しながら、ふたたびクシュンとくしゃみをした。

 窓がないので時間がよくわからなかった。
 だけど、お腹がすいていたので、かなり長く気を失っていたに違いない。
 遠征の人たちもそろそろ帰ってくるはずなので、せっかく材料も用意したのにご飯を作ってあげられないとミレーヌは肩を落とした。

 ガチャガチャと重い鍵が外される音がした。
 ミレーヌはそちらに目を向ける。
 入ってきたのはあの少年だった。
 やせぎすだし、飄々として妙な風格がある。

「起きてる?」
 ええ、と答えながらも再びくしゃみをする。
 こんな埃っぽいところにいると、どうにも鼻がおかしくなってしまう。

 少年はツカツカ歩み寄ってきて、倒れたままのミレーヌを簡単に起こすと、ヒョイと壁にもたれるように座らせた。
「怖い?」
 ええまぁ、とミレーヌは首をかしげた。
「あなた一人ですの?」

 多分ここは大きな建物だ。
 使用頻度は低くても立派で、廃墟ではなさそうだし、この少年の所有物でもない気がした。

 ん? と少年は肩をすくめた。
「一人だと言えば一人だし、たくさんと言えばたくさんいるかなぁ。僕はどうでもいい」

「どうでもいい?」
 変な言い方をすると思った。
 なんとなく、ガラルドに通じる話の噛み合わなさがある。
 そういう部分の足りない子なのかしらと、嫌な想像をして眉根を寄せた。

「聞いてどうするの、お姉さん?」
 しゃがんでまっすぐに見つめられ、ミレーヌは眼をパチパチと瞬きした。
「どうって……あら、嫌だ。本当に!どうしようもありませんわね」
 思わず笑ってしまった。
 そして、この子はどうしてこんなに恐い顔でにらんでみせるのかしらと頭を悩ませる。
 わざと怖い顔をしなくてもいいのに。


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~ Comment ~

NoTitle 

タイトルが不吉過ぎて笑ってしましました。

更新おつかれさまです、こんにちは。

のんびりと「あら、いやだ」なんて、さすがのミレーヌクオリティw
少年も毒気が抜かれてしまうんじゃないかしら。
ほのぼの、最高ですねヽ(*´∀`*)ノ

将来、サリになれるんじゃないかな、なんて思ってしまいます。
本人は無意識なんでしょうけど、ミレーヌも人の本質を見抜く力があるのかもしれませんね。 

Re: NoTitle 

こんにちは、いつもありがとうございます(*^_^*)

私が痛い話は苦手なので、苛烈な状況でもほのぼのかもw

そして、いついかなるときもマイペースなミレーヌさんです(笑)
やっぱりサリばあちゃんの孫ですねw
ガラルドさんとミレーヌさんも愉快な関係ですが、少年とミレーヌさんもそれなりに笑えます!
誘拐犯と人質のはずなんだけどw

楽しんでもらえるといいな~♪
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