「英雄のしつけかた」
第三章 死神と呼ばれる少年
第43話 遠征は突然に 1
夜中。
サリの声でミレーヌは目を覚ました。
「こんな夜に何人も出かけるみたいだねぇ。なんだか遠くへ行くみたいだから、頼まれてくれるかい?」
うん、とうなずいてミレーヌは起きあがった。
耳が悪いくせに異様に勘が働くので、サリの予想は外れることが少ない。
時間を確かめれば日付が変わったばかりだったので、こんな深夜に出立するならば緊急事態に違いなかった。
寝起きのいいミレーヌは即座に身支度を整えると、サリの頼みを承諾した。
こんな事は初めてだが流派の動きは教えられていたので、昼だろうが夜だろうが迅速に動く時には退魔だと知っていた。
出逢ったときのように、魔物が地方に出たと通達が届いたのかもしれない。
思い出して、ゾクリとした。
混乱の最中は無我夢中で感じる隙間もなかったけど、時間が経つにつれて魔物がどれほど恐ろしかったか身に染みてしまう。
普通に王都で暮らしていると忘れがちになってしまうが、大街道から少し離れるとああいった危険な状況は当たり前なのだ。
カーディガンを羽織るとサリに従って仕込んでいた薬酒を用意して、いくつもの小さな盃と一緒に盆にのせた。
古くから伝わる災いを払うためのまじないだとはいえ、ミレーヌにとって馴染みのあるものだった。
ただの迷信だと侮ってはいけないのだ。
そんなものになんの意味があるんだね?と笑った商家の主は先日亡くなった。
もう心配症ねぇと笑いながらほんの少しだけなめた婦人は軽いけがですんだ。
サリの知っている手順どおりに薬酒を口にしたミレーヌ自身は、怪我一つなかった。
偶然だと切り捨てるよりも、災いを払う手順を踏むのは気持ちが休まるのだ。
それに。
今現在、命を扱う雇い主と共にいるならば、相応しい習慣に違いない。
一緒に暮らしている彼らは、亡くなった商家の主よりもっと危うい場所にいるから。
きっと、この薬酒の意味も見ただけでわかるだろう。
神妙な心持でまじないの準備をして、ミレーヌは詰所に向かった。
窓からもれる光が濃い。
サリの言葉通りに、夜勤以外の者も起きているようだった。
いつもは静かな夜の詰所の中で、たくさんの人影が忙しそうに動いていた。
コンコン、と外から窓を叩くとすぐに開いた。
「おやおや、ミレーヌ様。どうされました?」
にこやかにデュランは顔を出したが、やはり目の色はいつもと違っていた。
すでにこれから向かう事件へと、その意識がうつっている。
緊迫した面持ちの彼らの助けになればと思い、ミレーヌは出来るだけやわらかな表情を作った。
「おばあちゃんから言付ですの。待っているからここに帰って来なさい、ですって」
そうですか、との答えもいつになく歯切れが悪かった。
普段ならふざけてばかりだと感じるほど朗らかに笑っているのに、今夜はピリリと空気が張り詰めている。
後ろからサガンやラクシも顔を出した。
「ありがたいお言葉だけど、どうなるかな」
まぁ想像以上に表情が硬いわと思いながら、ミレーヌは小首をかしげた。
「いつお戻りですの?」
「さぁね」とにごされ、明確な答えはなかった。
それほど厳しい状況なのだろうか?
こんなことは珍しいと思いながら、出かけるメンバーを聞いた。
王都に残るのはデュランの他は三人だけだ。
隊員のほとんどが出て行ってしまう。
一騎当千と謳われるほどの彼らが総出となると、魔神とかドラゴン並みの魔物になる。
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サリの声でミレーヌは目を覚ました。
「こんな夜に何人も出かけるみたいだねぇ。なんだか遠くへ行くみたいだから、頼まれてくれるかい?」
うん、とうなずいてミレーヌは起きあがった。
耳が悪いくせに異様に勘が働くので、サリの予想は外れることが少ない。
時間を確かめれば日付が変わったばかりだったので、こんな深夜に出立するならば緊急事態に違いなかった。
寝起きのいいミレーヌは即座に身支度を整えると、サリの頼みを承諾した。
こんな事は初めてだが流派の動きは教えられていたので、昼だろうが夜だろうが迅速に動く時には退魔だと知っていた。
出逢ったときのように、魔物が地方に出たと通達が届いたのかもしれない。
思い出して、ゾクリとした。
混乱の最中は無我夢中で感じる隙間もなかったけど、時間が経つにつれて魔物がどれほど恐ろしかったか身に染みてしまう。
普通に王都で暮らしていると忘れがちになってしまうが、大街道から少し離れるとああいった危険な状況は当たり前なのだ。
カーディガンを羽織るとサリに従って仕込んでいた薬酒を用意して、いくつもの小さな盃と一緒に盆にのせた。
古くから伝わる災いを払うためのまじないだとはいえ、ミレーヌにとって馴染みのあるものだった。
ただの迷信だと侮ってはいけないのだ。
そんなものになんの意味があるんだね?と笑った商家の主は先日亡くなった。
もう心配症ねぇと笑いながらほんの少しだけなめた婦人は軽いけがですんだ。
サリの知っている手順どおりに薬酒を口にしたミレーヌ自身は、怪我一つなかった。
偶然だと切り捨てるよりも、災いを払う手順を踏むのは気持ちが休まるのだ。
それに。
今現在、命を扱う雇い主と共にいるならば、相応しい習慣に違いない。
一緒に暮らしている彼らは、亡くなった商家の主よりもっと危うい場所にいるから。
きっと、この薬酒の意味も見ただけでわかるだろう。
神妙な心持でまじないの準備をして、ミレーヌは詰所に向かった。
窓からもれる光が濃い。
サリの言葉通りに、夜勤以外の者も起きているようだった。
いつもは静かな夜の詰所の中で、たくさんの人影が忙しそうに動いていた。
コンコン、と外から窓を叩くとすぐに開いた。
「おやおや、ミレーヌ様。どうされました?」
にこやかにデュランは顔を出したが、やはり目の色はいつもと違っていた。
すでにこれから向かう事件へと、その意識がうつっている。
緊迫した面持ちの彼らの助けになればと思い、ミレーヌは出来るだけやわらかな表情を作った。
「おばあちゃんから言付ですの。待っているからここに帰って来なさい、ですって」
そうですか、との答えもいつになく歯切れが悪かった。
普段ならふざけてばかりだと感じるほど朗らかに笑っているのに、今夜はピリリと空気が張り詰めている。
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「ありがたいお言葉だけど、どうなるかな」
まぁ想像以上に表情が硬いわと思いながら、ミレーヌは小首をかしげた。
「いつお戻りですの?」
「さぁね」とにごされ、明確な答えはなかった。
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