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短編集 恋の卵

花火のような恋をする  おわり

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 長いと思っていた夏休みも、あっという間だ。
 もうすぐ8月が終わると思っただけで、夏にサヨナラする気持ちになるのが不思議だ。

 駆け足で過ぎていくこの夏は、週に二回ぐらい、加奈ちゃんと榊君と坂口君と過ごした。
 そうなのだ。加奈ちゃんと坂口君は本格的にお付き合いを始めたのに、私たちは四人で行動していた。

 ふたりきりだと恥ずかしくて言葉に詰まるから、一緒にいて欲しいって私は加奈ちゃんに頼まれた。
 そして、ふたりきりだとヨコシマな事をして嫌われそうだから一緒にいて欲しいって、榊君は坂口君に頼まれたらしい。

 二人きりになったときに、ヨコシマなの? って聞くと、健康なだけです! って言い張る榊君はムキになっていて、可愛いと思ってしまった。

 加奈ちゃんと坂口君が二人きりで過ごせるようになったら、私と榊君のこんな時間も無くなってしまうだろうな。
 だって榊君は、坂口君の恋を叶えるために、一緒に行動しているだけだから。

 私はたぶん、親友の彼女のオマケでしかない。
 そう思うと、少しだけ切なくなった。

 残念だな、とか。
 もっと二人で居たいな、とか。
 そう思ってしまうぐらい、たぶん、私は、榊君が好きだ。

 花火のような恋だと思う。
 暗闇の中でしか、咲けない花だ。
 パッと咲いて、パッと散る、炎の花。
 つかみ取ることもできず、消えてしまうだけの光の花。
 これは、見つめることしか許されない、触れることすらできない、綺麗な恋なのだ。

 でも、残念なままでもいっか。とも思う。
 だって本気になりすぎて、色彩豊かで高温の炎の花に手を伸ばしてつかんだなら、取り返しのつかない火傷をしてしまう。

 ただの高校生だもの。
 そんな感情、私の手に負えるわけがない。
 
 夏休みの間に抱いた、このどうしようもない気持ちも、学校が始まるまでのものだ。
 新学期が始まって、たくさんのクラスメイトと過ごしていれば、あっという間に感じなくなる。
 花火みたいなこの感情も、いつか、夏の思い出になってしまうのだろう。

 そんなことを考えながら過ごしていた、夏休みの最後の土曜日。
 珍しく夕食を外で食べようと、お父さんが言い出した。
 浴衣割引のある場所だからといって、家族みんなで浴衣まで着た。

 お父さんの車に乗って、しばらく走っていたら、違和感に気が付いた。
 この先は河川敷だから、川と土手しかない。
 間違ってもレストランはないから、戸惑ってしまった。
 お父さん、と声をかける前に、車が止まる。

「降りなさい。ほら、榊君たちと楽しんでおいで」
「シンデレラみたいに、0時になる前に家に帰ってくるのよ」

 呆然としていたら、扉を開けてくれた榊君が、王子様みたいに私の手を取った。
 こんばんはと両親に挨拶して、お嬢さんをお預かりしますなんて真顔で言って、両親が車で去っても私は夢を見ているようだった。

 ふわふわした気持ちのまま歩くと、土手や河川敷に人がいた。
 加奈ちゃん坂口君はもちろんのこと、他のクラスの子もいたし、なぜか商工会の法被を着た大人もいる。
 用意されていたスチール椅子に座って、当たり前のように焼きそばやフランクフルトを渡されて、やっと私は正気に戻った。

「ねぇ、どういうこと?」
「打ち上げ花火を、春野と一緒に見たかったんだよ」

 ヘラヘラと榊君は笑った後で、肩をすくめる。
 打ち上げ花火を個人でもできるのか調べて、とりあえず軍資金を集めた。
 自分たちだけではなく、クラスの子にも声をかけて、子供の頃の戦隊もののおもちゃやプラモデル、コレクションにしていたけどもう使わないものをネットで売った。
 状態が良ければ高値で取引されるので、わりといい感じに資金は集まっていたそうだ。

 そして、うちに来た日。
 私に打ち上げ花火を見せたいという榊君の話を聞いて、お父さんは「わかった」と言ったらしい。

「それなら、病院に入院している子供たちにも打ち上げ花火を見せたい」

 そして病院内にある、患者の会でも融資を募った。
 クラスの子の中に商工会の会長さんのお子さんがいたことで、商工会でも融資を募り、話が大きくなっていった。
 本気を出したお父さんたちは、花火の打ち上げ場所の準備や許可証の発行や、仕出しの焼きそばなどの用意もしてくれたらしい。

「まぁ、そういうわけで。不可能を可能にするなんてカッコを付けたけど、俺はきっかけを作っただけなんだよな~マジで、本気出した大人ってすげぇ」
「そっか。でも、ありがとう。お祭りじゃなくても、花火って大丈夫なんだね」
「意外と気軽なんじゃね? プロポーズ・プランなんてのもあったぞ」 
 
 そんなことを話しているうちに、時間になった。
 ヒューッと軽やかな音を立てて、真っ暗な夜の中を光の玉が昇っていく。
 腹の底から揺らすような、ドーンと大きな音がして、赤や黄色の光の花が大きく咲き誇る。

 いくつも。いくつも。
 魂にまでドーンと音を響かせて、キラキラと光を放ち、大きな花びらで夜空を彩った。

 パッと咲いて、パッと散る。
 あっという間に消えてなくなるのに、なんて綺麗なんだろう。

「春野、夏休みが終わったら、今度は二人で出かけよう」
「え? 加奈ちゃんたちは?」
「あいつらは勝手によろしくやるんじゃね?」
「なぁに、それ」

 その言い方に笑ってしまったけれど、榊君は真顔だった。
 花火なんかより、榊君から目を離せない。

 ギュッと右手をにぎられる。
 その体温が、やけに熱くて、火傷しそうだ。

「俺は春野とふたりがいい」

 俺の気持ちに気が付いてないってのは知ってるけどな、なんて。
 榊君はヘラリと笑ったけれど。

 その笑顔は、私の心に焼きついた。
 もう、引き返せない気がする。

 私は彼に、花火のような恋をするのだ。
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