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短編集 恋の卵

花火のような恋をする そのいち

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「なにそれ? 春野って、本当に花火を見たことないのか?」
「え? うん。そんなに変かな?」
「変じゃねーけど、高校生にもなって一度も見た事ないのは、珍しいと思うぞ」

 打ち上げ花火なんてテレビの中でしか知らないってところに、隣の席で焼きそばパンをパクついていた榊君が口を挟んできたから、ものすごく驚いた。
 榊君は調子が良くて目立つタイプの男子だけど、軽い態度のわりに他人の事情にズケズケ踏み込まないように気をつけてる人なので、こんな風にちょっかいをかけてきたのは初めてだ。

 そっか、それほど珍しいのか。
 今まであまり気にしたことがなかったけれど、私はまさかの少数派だったようだ。

 それで話は終わるかと思っていたら、榊君とそのお友達の坂口君にガタガタと机をくっつけられた。
 私も加奈ちゃんも気が弱いので拒否する言葉が思いつかない。

 どうしたらいいんだろ、コレ。
 加奈ちゃんとお弁当を食べていて、たまたま夏祭りの話になったからポロッと言っただけなのに、不測の事態である。
 それにしても、打ち上げ花火や夏祭りを体験したことがないだけなのに、榊君と坂口君から向けられる憐みの視線が痛い。

「うち、妹が入院しがちで車イスだからさ。家族で夜のお出かけってしたことないの」

 へらへらっと笑うと、二人はショックを受けたようだった。
 事情は変えられないけど重く受け取られるのも嫌なので、めいっぱい明るく装ったら、いたたまれない空気になってしまった。
 榊君と坂口君って、良い人だったんだ。
 調子に乗って騒いでることも多いから、チャラ男予備軍だなんて思っててゴメン。

「あ~それなら、今年、俺らと行くか? 春野、頭がいいじゃん。ついでに宿題、うつさせてよ」
「それ、どっちがついでかわかんない」

 あきれて笑う私と加奈ちゃんに、榊君と坂口君も笑って、さっきまでの「しくじった」ってナーバスな表情が消えて、良かった。
 私にとっては普通でも、相手には負担になることが多いので、家族の話題は鬼門なのである。
 このままスルーしてくれるといいな、と思っていたら、榊君は真顔になった。

「真面目に、夏祭りや花火、一緒にどうよ?」

 私と加奈ちゃんは顔を見合せた。
 声に出さなくても、意見は一致していた。

「家族のことがなくても、私、人混みって苦手」
「だよね。図書館で宿題するとかなら、付き合ってもいいよー」

 マジか、と榊君と坂口君は、そろって絶望的な顔をした。
 学生の本分は勉強ですよ、ともっともらしく告げると、勉強だけじゃ人間の幅が狭まるんだよって語られた。
 その理屈はわからないでもないけれど、蒸し暑い宵にあふれかえる人の群れに突っ込んでいく気にはならない。
 だけど、堂々と夜遊びの理由になる花火や夜祭の有用性を語りながら、ムキになる榊君たちは面白かった。

 花火やお祭りに興味がないのかって聞かれると、絶対に嫌と泣きわめくほどではないけれど、でもやっぱり気は進まない。
 花火って綺麗なんだぞって言われても、そのぐらいはテレビで知っている。
 とにかく、人混みはつらいよねーと適当に流す私と加奈ちゃんに、榊君はビシッと指を突き付けて、まるで悪役のように宣言した。

「覚えてろよ、俺は不可能を可能に変える男だからな」
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