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Making Twilight

そして魔女は旅に出る 2

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 少年は魔女の弟子になった。
 最初の頃はおどおどビクビクとしていた。
 いつ捨てられるのか気にしているらしく魔女の顔色ばかりうかがっていたが、繰り返し「魔女に二言はないよ!」と威勢よく言い放たれ、その言葉が染み込むほどに弟子の顔をするようになった。

 魔女が品行方正でお行儀良い子を求めていないと気付くと安心したのだろう。
 表情が目に見えてよくなった。
 と、同時に生来のやんちゃが顔を出し、好奇心そのままに駆け回りだした。
 大人しかったのは最初のうちだけだったとも言える。

 普通の子供を育てるのも簡単ではないと聞くから、普通から少々離れた子供を育てるならどうなるか、魔女だってある程度の覚悟はしていた。
 覚悟していたものの想像していた「困ったこと」の生ぬるさは現実とのギャップがありすぎて、つくづく身に染みた。
 子供のやることは限度を知らないから、魔女の想定の百歩ぐらい先を行くのだ。

 こうしておくれと指示すれば「はい」と晴れやかな返事をするくせに、ほどほどという奴をちっとも理解していない。
 草抜きを命じれば、植えた苗までひっこ抜く。
 畑を増やすから家の前をちょっとだけ耕せといえば、目の前の草原が消えるほど掘り起こす。
 薬草を煮詰める鍋を焦げないように混ぜろを言えば、高速でかき混ぜて中身を撒き散らし、ほとんど空にする。

 教える場なら目が届くからその程度で済むし、なにかをやらかしてもやり直しがきくからまだいい。
 ちょっと遊んでくる~と出かけては、ポケットいっぱいにみょうちきりんな卵を詰め込んでくる。
 ベッドの中に持ち込んだ蛹が孵り、家の中に魔虫がウゴウゴとあふれ出たこともある。
 「ただいまー」と帰って来ても、両手が荷物でふさがっていたという理由で扉に体当たりし、人型の穴があいた。
 魔女の眉間に、日に日に深いしわが増えていった。
 そのぐらいなら「このクソガキー!」とプリプリ怒りながらもしつけの範囲で教える事ができたが、とんでもないことも平気でやらかした。

 魔女の子育て事情の困った選手権でトップに立つのはアレだ。
 ちゃんと面倒を見るからと言って拾ってきたペットが幼生のドラゴンだった。
 なんでも、手紙を魔女の元に運んできたワイバーンが飛び立つのを見て、本気の自分とどっちが早いか競争がてら追いかけてみたらしい。
 草原を過ぎ、森を過ぎ、そろそろ帰らなければ魔女に怒られるかもーと思った時には、深い穴に落っこちていたらしい。
 そこが卵の羽化間近のドラゴンの巣だったのが運のつき。
 弟子が体当たりをした卵が衝撃で割れ、幼生ドラゴンがパカーンと誕生してしまったのだ。
 まったくもってふざけるな、である。

 生来の頑丈ぶりを見せつけて弟子に怪我ひとつないのは幸いだったが、あわや親ドラゴンとの正面対決になるところだった。
 親ドラゴンを倒すのは魔女にとっては簡単だったが、弟子の不始末を無条件で尻ぬぐいするわけにはいかない。
 かといって卵から孵って赤ちゃんドラゴンが初めて見たのが少年だったので間違ったすりこみ生まれ、親ドラゴンの元に返すこともできない。
 それどころか、正式な手順を踏んでもいないはずなのに、弟子と幼生ドラゴンは契約関係になっていた。

 恐るべき潜在能力。
 才能がどこに向いているか不明な現状で、ドラゴンの中でも高位に位置する雷竜と契約するとは。
 ホイホイと気安く契約を結ぶなと叱れば、ドラゴンはこいつだけにするという阿呆である。
 説教を受けている場にいて、ドラゴン以外なら大丈夫だと判断する神経がわからない。
 他もダメに決まっている。
 同じぐらいの生命力を持つモノを友達と呼んで、際限なくはべらしたら獣魔軍団と変わらない危なさだ。
 契約がどういうものかコンコンと説明しながら、今を逃すと二度と修正聞かないしつけの分かれ道に立っていることに、魔女は震えた。

 とはいえ、やってしまった事は仕方ない。
 責任の取り方を教えるのも、師匠の役目だ。
 途方もない忍耐と努力を駆使し母ドラゴンと交渉して、弟子と幼竜との共生を認めてもらった。
 このドラゴン事件を思い出すと、私は世捨て人なのだと布団の中に引きこもって現世から消えたいと思うぐらい、実に実に実に大変な交渉だった。
 そう、倒すだけなら一瞬ですむのに、猜疑心と復讐心の強い竜族相手に、平和的解決を求めて認めさせたのだ。

 魔女のそんな苦労もわかってないので、少年は幼竜を膝に乗せて母ドラゴンと魔女を見比べながらニコニコしていたけれど、あんな大変な思いは二度とごめんである。
 親竜にお引き取り願った後で、さすが偉大な魔女様! とか、俺の師匠は最高だ! とか、嬉しそうにクルクル踊っている姿を見れたので悪い気はしなかったけれど、それと不祥事は別だ。
 問題行動に対して、あとできっちりとお仕置きはした。
 したけれど、ドラゴンの育て方を夜なべして調べたり、餌を探したり、責任を弟子に持たせたうえでつつがない育成に導くと言う難題が待っており、慣れない弟子育てにプラスしてドラゴンの子育てまでする羽目になったので、悩みすぎて頭が禿げそうだった。

 やんちゃな弟子を追いかけて走り回る日々。
 自宅のある悠々自適な生活のはずが、愛用の衣服は動きやすい旅装束だった。
 老後の楽しみにとイソイソ集めていたレースのリボンや色鮮やかなワンピースは、ひっそりとタンスの奥にしまわれたままだ。
 髪を結いあげる暇がないので、さっくり編んで後ろに流し手邪魔にならないようにした。
 簡単な体術なら教える事ができるので、冒険していた日々のように弟子と組み合った。
 本格的な武術となるとお手上げだから、時々は元勇者を呼びつけて戦い方を身につけさせた。
 弟子のくせに魔術の才能はゼロだったが、魔法について知ってさえいれば役立つことがあるので、惜しむことなく知識として与えた。
 その程度の事は当事者の少年にとって「とんでもないこと」ではなかったのかもしれないが、悩む時間の長さが魔女の額に深いしわを増やしていったが、その口元には苦笑ともつかない微笑みがあった。
 心ざわめく落ち着かない日々にいるはずなのに、独りでは味わえない奇妙な安らぎが胸にあふれていた。

 子育ては自分育て。
 かつての仲間だった聖女が口癖のように繰り返していた言葉を、ある日、フッと思い出した。
 弟子を育てているつもりだったが、確かに学んだことも多かったと思う。
 旅に流れていた遠い日々よりも、色濃く鮮やかな日常を手にしていた。

 そしてある日、魔女は気がついた。
 無我夢中で今日まで来たが、自分から少年に伝えられる事が、もう何もないのだ。
 弟子と暮らし始めて、十年の月日が流れていた。
 あっという間の十年だった。

 良い弟子だ。
 実に実に良い弟子だ。
 同じ言葉を百回繰り返しても足りないぐらい、良い弟子なのは、良い弟子であろうと彼自身が努力しているからだ。
 青年になってからも非常に口が悪いのは、魔女に似たからかもしれないが、欠点といえばそれぐらいだ。

 元気が良すぎる事はあったが、コツコツと積み重ねるように、よく学び、よく動き、よく働いている。
 とっくに魔女の背を越しているし、見目麗しいほどの筋骨たくましい青年に育っているのに、魔女の前では意識的に弟子の顔を作っていた。
 それは生い立ちから来る表情かもしれない。
 弟子が少年だった頃、不安にかられるたびに「ここにいていいの?」と問いかけてきたから、繰り返し「おまえは弟子さ、魔女に二言はないよ!」と宣言してきた。
 手を離すには早すぎたからだ。

 けれど、その問いかけを最後に聞いたのは、いつだっただろう?
 その言葉を忘れるほど、記憶に遠くなっている。
 今の弟子がこの家でこのまま暮らし続けて、なにか得るものがあるのだろうか?
 この家での生活に満足できるならそれで幸せなのだろうけれど、小さな幸せをかみしめて生きるには弟子は大きな力を持ちすぎている。

 何より、生来の好奇心が強いのだ。
 かつて、未来への希望を胸に抱いて、村を出た魔女と同じだ。
 すっかり大人になった成ドラゴンに乗って散歩に出かける事も増え、ふとした瞬間に遠くを見ている弟子の瞳にも、魔女は気付いていた。

 独り立ちする時が来たのだと思う。
 家や家庭に憧れを持っているからといって、魔女の家で弟子を続けることに執着する必要はないのだ。
 魔女はまた、覚悟をひとつ決めた。

 その日。
 ていねいに手間暇かけて、季節の野菜を大漁に調理した。
 我ながら笑いだしたくなるぐらい多彩な料理を食卓に並べた。
 用事を終えて返ってきた弟子が、目を丸くして「誰がこんなに食うんだよ?」と腹を抱えて笑うぐらい豪華な食事を用意した。

 すべて、弟子の好物だった。 
 血となり、肉となり、骨となる、魔女から贈る最後の晩餐。

「なんの祝いなの、師匠? なにかいいことがあった?」
 パクパクと美味しそうに料理を食べながら問いかけてくる弟子に、魔女はさみしく笑った。
 全くわかっていないところも、弟子の可愛いところだった。
「あったよ、とてもいいことさ」
 一つ、大きく息を吸って、ハッキリと告げる。
「もう、私が教えてやれることは何もないよ。一人前になるまで、よくがんばったね」

「……師匠?」
 どういう意味だと問いかけてくるから、あとは自分で学べってことさと目を見て言った。
 弟子からジワジワと表情が抜け落ちていく。
 なにやらいろいろと考えている様子に、祝いなのにしけたツラしてんじゃないよと魔女は笑った。

「俺、まだまだ半人前だろ?」
「さてね、それを自分で確かめてこいっつってんだよ」

 自信がないのは当たり前だ。
 未知の世界に足を踏み出す時は、いつだって不安が先に立つ。
 だけど、自分の足で歩き、自分の目で見て、自分で考えながら生きていく。
 それだけの力をすでに持っているのは間違いないから、自信を持って送り出せるのだと魔女は胸を張った。

「世界は広いよ。あたしが生きてるうちに土産話を持ち帰れなんて言わないから、せいぜい気張んな」
 弟子は「いきなり追い出すなんて、ひでぇじゃねぇか」とブツブツぼやいていたけれど、結局のところ旅立つことを受け入れた。
 迷うよりも、まだ見ぬ世界への興味が勝ったのだ。

「ジーク、おまえの未来に祝福を」

 送り出す朝、初めて魔女は弟子の名を呼んだ。
 魔力を持つ者が名を口にのせると呪文に似た意味合いを帯びるので、日常生活では呼ぶことを避けていたのだ。
 しゃんと背を伸ばし、いつもと同じ厳しいまなざしを、弟子の背中に向けていた。
 心配だとは言わなかった。
 気をつけて行けとも言わなかった。

 どんな難事が立ちふさがったとしても、越えていけるだけの技も知識も伝えたのだ。
 彼の未来の旅の行方は、彼の持つ運の巡り次第だろう。

 別れの挨拶に、ドラゴンの背に乗る弟子は不敵に笑った。
 食卓でいきなり別れを告げられた時にはさすがにへこんでいた様子を見せていたが、いつかこんな日が来るのはわかっていた顔だ。
 一緒に暮らし始めて間もないころに、いつかひとりで旅立ち世界を巡る日が来ると、賢明な魔女から予告していたからだ。

 それが今だとは思ってもみなかったけれど、永遠の別れではないのだ。
 だからサヨナラは言わない。
 いってきますとも言わない。
 師匠と弟子でいる日々に終わりをつげても、偉大な魔女に向ける想いは変わらない。
 せいいっぱいの愛情と尊敬を込めて、ジークは快活に告げる。

「俺がいなくなっても泣くんじゃねーぞ、くそババァ!」
 懐かしい悪態に、魔女はほんの少し表情をゆがめた。
 くそババァと呼ばれ続けたのは、出会って間もないころだ。
 本当にどうしようもない弟子だと思う。

「ハ! 泣くのはそっちだろ? とっとと行きな、このクソガキ!」
 威勢よく言い返すと、けらけらとジークは笑った。
 魔法の才能こそなかったが、明るくて、快活で、魔女にとっては最高の弟子だった。

 名残を惜しむような沈黙が、ほんの少しだけ落ちる。
 しかし、言葉を探す前に、バサリとドラゴンが翼を広げた。
 真っ青な空にむかって、白銀の鱗をきらめかせながら飛び立った。
 輝く希望とともに弟子をのせたドラゴンが、空の彼方へと遠ざかる。
 遠く、遠く、まだ見ぬ世界に向かって、力強く羽ばたいていく。

 見送る魔女は、静かに祈る。
 愛しい弟子の未来に、神の恩恵と祝福が満ちますように。

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