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Making Twilight

夜の花

 ←なんだかなぁ(愚痴注意 →全部冬のせいにする
 その日。小菊は突然の夕立に往生していた。
 父親の晩酌用の酒を買いに来たので、急ぎ家に戻りたかったがすぐにはやみそうにない。
 走ろうか雨宿りをしようか軒先で立ちすくんでいると、横から傘をさしかけられた。
 驚き振り仰ぐと、知った顔があった。
 名は佐吉。忙しいのか長屋には寝に帰るだけのようで、同じ棟に住んでいる小菊も顔を覚えるまでに二つほど季節を過ぎていた。
「入りやすか? 確か、同じ長屋でしょう」
 反射的に「いいえ」と断ってしまう。
 挨拶はした事がある。生業は知らないが、どこぞの商家に呼ばれて雇われた職人だろうとは、カンザシ職人の父の見立てだった。
 悪い男ではない。けれど、素生のしれない男と肩を並べることは難しかった。
 会釈を残し、そのまま走って逃げようとしたら、雨に足を取られて鼻緒が切れてしまった。あっと思ったときには身体がかしいだ。
 徳利を抱いたまま目をきつく閉じたけれど、小菊が地面に倒れこむことはなかった。
 ふわりと鉄臭い不思議な香りに包まれ、ゆるゆると目を開けると支える腕があった。
 佐吉だった。傘をさしたままで、倒れそうな小菊を抱きとめていた。痩躯に見えていたので、小菊を軽々と抱きとめた力に驚いた。
「持っていておくんなせぇ」
 佐吉は茫然としている小菊に傘を渡し、しゃがみ込むと切れた鼻緒を簡単に直した。
「それじゃぁ、あっしはこれで」
 小菊に傘を持たせたまま去ろうとするので、今度はあわてて佐吉を呼び止める。
「あの! 同じ長屋ですから、やっぱり……」
 最後までうまく言えず足元に視線を落とす小菊に、佐吉は黙ってうなずくと傘を持った。
 戸惑いに震えたのはどちらが先か定かではないが軽く触れた佐吉の手は固く分厚かった。
 肩を並べている間、小菊の口から言葉は何も出てこなかった。
 佐吉もしゃべらなかった。だから佐吉が何を思っていたのか小菊にはわからない。
 ふたりきりの道行きを雨の音が包み込む。
 別れる時も会釈をしただけで、佐吉は簡単に背を向けた。小菊に傘のほとんどをさしかけていたから、着物を絞れば水が滴るほどに重く濡れている後ろ姿が遠ざかっていく。
「生きた小割物に出会っちまった」と雨に溶けそうな声で聞こえた気がするけれど、今でも小菊にはその意味はわからない。
 一年が過ぎても、佐吉はどこか不思議な男のままだった。忙しいのか夏も冬も出ずっぱりで、凍えるような乾いた日は長屋に帰ってこない。そのくせ雨の日や梅雨時期は、日中でもその姿を見せる事があった。
 誰にでも挨拶はするが気さくとは言い難く、どちらかといえば会話は苦手な口で、礼に小鉢に入れたに物を持っていくと「ありがてぇ」の一言ぐらいはくれるがその先はなく、眼差しに潜んだ熱だけが炎のように揺れる。
 もどかしさが慕わしさに変わり、想いが募っていく。思うように会えないのが辛くなる。
 ある夏の日の事である。
 小菊は納涼の花火大会に佐吉から誘われた。
 寝る間も惜しむように仕事に出ていた様子なのにといぶかしく思っていたが、惚れた男からの心弾む誘いには違いなかった。
 ふたり宵闇に歩きだす。人ごみの中、はぐれちゃならねぇからと差し出された手に、そっと手を添えたらしっかりと握られる。
 ただそれだけで、小菊の心臓は踊りだした。
 河川敷で花火を待つ間、佐吉が言った。
「今日の尺玉はあっしが作りやした」
 いつも火薬臭いでしょうと苦笑する。
 花火職人と明かし、花火について語りだした佐吉は饒舌だった。
 割物が大きく丸く開く花火。
 小割物は小さな玉を放出して、多数の小花を一斉に咲かせる花火。
 花火がどれほど素晴らしいか流れるように語っても、佐吉の話には終わりが見えない。
「夜を照らす星や花を作ると言えば聞こえはいいが、あっしの仕事は危ねぇもんです」
 神経をとがらせていても、火薬をあつかっている限り、いつ何が起こるかわからない。
 それでも花火師をやめられないと苦笑する。
「とんだ花火狂いと笑われますがね……小菊さんを初めて見た時……小割物だと思いやした。触れちゃならねぇ綺麗な花だ」
 つないだままの手に、強く力が込められた。
 意を決したのか、ひたと見つめてくる真剣な眼差しに、小菊は息が止まった。
「でも小菊さんは一瞬の夢じゃねぇ」
 周りの人たちの歓声も、打ち上げられ始めた花火の音も、小菊には聞こえなくなる。
「一生、あっしの側で咲いておくんなせぇ」
 ドンとひときわ大きな音がした。佐吉の眼差しで、彼が作った最高の尺玉だと知る。
 夜空に咲いた大輪の花の下。
 小割物よりも鮮やかな微笑みを浮かべ、小菊はゆっくりとうなずいた。


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