短編集 恋の卵

キスまでのカウントダウン

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「誕生日プレゼント、何がいい?」
 ヒロ君の優しい声にうながされた時、思わず口から出そうになった言葉が唐突すぎて、自分自身が驚いてしまった。
 だって、キスしたい、なんて。
 下校時間の教室に同級生がいる中で言い出せるはずもなく、思考ごとフリーズし口ごもったままうつむいてしまう。
 どうしよう……声には出していないけど、無意識に浮かんだお願いが恥ずかしすぎる。

 キス、なんて。
 お付き合いをしているから別におかしくはないけど、まだ早い気がする。
 ヒロ君と私は付き合い始めたばかりで、告白してOKの返事をもらってから、まだ二週間しかたっていないのだ。
 それとも、もう二週間もたっているのに、手をつないだ事もないって、進展が遅すぎるのだろうか?

 なにより。
 私から「好き」って言ったけど、ヒロ君から「好き」って言われた事もない。
 ストレートに、私の事ってどう思ってる? なんて問いかけられるわけもなく、ずっと魚の小骨みたいに喉の奥で引っ掛かったままだ。
 自分一人で温めながらふくらんでいく好きと、ふたりでゆっくり育てていく好きって、同じ「好き」のはずなのに「好き」の向かう方向が違いすぎて困る。

 ちょっぴり不安だから、キスしたいとか。
 もっとヒロ君に近づきたいから、キスしたいとか。
 言葉よりも「好き」が伝わりそうだから、キスしたいとか。
 触れることでわかる事もありそうな気がするから、キスしたいとか。
 理由はいろいろあるけど、いきなり「キスしたい」なんて言えるはずもなくて。

 ずっと遠くから見つめていた人がすぐ側にいるなんて、それだけで嬉しいけどどうしていいかわからない。
 うまく話そうとか、ちゃんと笑わなきゃと思えば思うほど、手のひらにじっとり汗をかいて何も言えなくなってしまう。
 このままじゃ、つまらない子だって思われてしまうかもしれない。

 不自然にモジモジして挙動不審になっていたら、ヒロ君がスッと身をかがめてきた。
「どした?」
 顔をのぞかれて、ひゃぅ! と変な声が出てしまった。
 冷や汗が出てくるし、心臓が異様に早くなるし、目の前が真っ白になりそうで、どうしていいかわからない。
 絶対、変な子だとだと思われた。

「あの! また、明日までに考えとく!」
 じゃぁね、と走り去ろうとしたんだけど、足がもつれてからまってしまう。
 床に転がりそうになったところで、二の腕をつかまれた。
 ひょいっと軽々とヒロ君は私を引き寄せて立たせると、プッと遠慮なく吹き出す。
「ほんと、理沙ちゃんって面白いよな」
 あははって楽しそうな笑い声が、ザクザクと私の気持ちを突き刺していくのが悲しい。
 恋の相手から、いつの間にかお笑い担当になっているのかもしれない。
 思いきり肩を落としていたら、ひとしきり笑った後でヒロ君はポンポンと私の頭を軽く叩いた。

「慌てなくていいよ。そういうとこ、好きだから」

 思わず見上げたら、ヒロ君は真顔だった。
 今まで見た事もないような真面目な表情から目が離せない。
 私のこと好きって初めて言われた事に気がついて、自然に息が詰まる。
 反応の仕方がわからなくてドギマギしていたら、伸びてきたヒロ君の手が私の頬に触れた。
 壊れ物を触るような優しい動きに、ドクドクと激しく動きすぎて心臓が壊れそうになる。

「今度、恋人らしい事しようか?」
 恋人らしい事って? なんて聞き返す前に、ヒロ君の人差し指が私の唇に触れた。
 長い人差し指がゆっくりと唇の輪郭をなぞるから、背筋がゾクゾクして気が遠くなる。
 今日はお預けって少し残念そうにつぶやいて、名残惜しそうな動きでヒロ君の指が離れていく。

「だからね、リサちゃんが思ってるよりもずっと、俺は君の事が好きだから」

 当たり前のように言うと、フッと悪戯っぽくヒロ君は笑った。
 わざわざ私の目の前でチュッと音をたてながら、唇で自分の人差し指に触れた。

「間接キスだね」

 心臓が、止まるかと思った。
 そんなのひどい、と言っていいのか。
 そんなのずるい、と言っていいのか。
 恥ずかしすぎて、自分の気持ちがわからない。
 だけど、ハッキリしてる事もちゃんとあって。

「私も、ヒロ君の事、好きだから」

 一緒に帰ろうねと言って歩き出したヒロ君の服の裾を、キュッとつかんで引き止める。
 ちょっとビックリした顔をして、それから嬉しそうにヒロ君は笑った。
 目元や頬がほんのり赤くて、照れてるんだなってわかる。
 あのね、と続けようとして、ふと気がついた。
 チクチクと刺さるような視線を感じる。
 ソロリとその方向に視線をやると、教室に残っていた同級生たちがわざとらしく横を向いた。
 不自然な沈黙が痛い。

 いたたまれない気持ちで一人焦っていたら、帰ろ、と言ってヒロ君は私のカバンも持ってさっさと歩き出した。
 急いでその背中を追いかける。
 靴を履いて、玄関を抜けると、それまで急ぎ足だったテル君が振り向いて、ふわっと笑った。

「今度、ふたりきりの時に恋人らしい事しようね」
 その声があまりに優しくて、声が出なくなる。
 恋人らしいことって? って聞き返したいけどうまく言えなくてモジモジしていたら、ハハッとヒロ君は声を出して笑った。

「大丈夫、俺、我慢強いほうだから、ステップ踏むのも急がない」
 ゆっくりじっくり教えてあげるね、なんて艶のある表情のまま。
 思わせぶりに微笑んでくるから、私は赤くなることしかできない。
 どこまでも、ヒロ君にはかなわない気がする。

 たぶん、きっと。
 こうして交わす言葉のひ2とつひとつが、キスまでのカウントダウン。

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