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短編集 ふんわりと

消しゴム(その2)

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 木炭で描きだした草原。
 黒一色の世界を切り裂く白は、パクリとあいた心の傷に似ている。
 一年前、消しゴムで僕自身が白く傷つけた。
 長い間放置していた傷と、僕は向かい合う。 
 ひと筆ひと筆、手当てするように僕の一番得意な油絵で、キャンパスに色をのせていく。
 無言のまま筆をすすめる僕の横に、シオンもまた無言で立っていた。
 それが最初は気に障って仕方なかった。
 シオンと初めて会ったのは一年前。
 突然、祖父の遺言を携えて現れたのだ。
 両親が早くに亡くなってしまってから、僕はずっと天涯孤独だと思っていた。
 駆け落ちした両親は親族すべてと縁を切って暮らしていたから、肉親が存在するなんて僕自身思いもよらなかった。
 突然のように祖父の存在を知らされ驚いたし、すでに亡くなったと聞かされて戸惑う僕にシオンから渡されたのは相続の書類だった。
 僕は条件を了承することだけを求められた。
「祖父が指定した場所の絵をすべて僕自身の手で描き、シオンの所有を引き継ぐこと」
 そんな条件を示され、初めて目の前にいる女性は支援アンドロイドだと知った。
 実際に目にする機会は少ないけれど、富裕層では所持者も多く、秘書的作業や介護、家事の切り盛りまで能力は多彩である。
 面倒なのは指定された場所が十か所以上あったことだろうか。祖父の裕福な暮らしを示すように、世界を巡るに等しい土地ばかり。
 何カ月かかるかわからない旅程も、企業に勤めていない僕には難しい相談ではなかった。
 そもそも僕は売れない絵描きなのだ。
 遺産という先払いで、旅費も代金も保障されている、絵を描く旅が始まった。
 シオンは優秀だった。通訳も手続きもシオンがいれば事足りる。
 だけど次第に、僕の心はささくれていった。
 どんな絵を描いても、シオンには心がない。
 木炭だけのただのデッサンでも、やわらかな色彩のパステルでも、重厚な油絵でも、シオンにとっては一枚の絵にカウントされる。
 三十分で書きあげた作品も、一カ月かけた作品も、全く同じただの絵だった。
 消しゴムの一閃で台無しにしても、完成した一枚の絵として数えられてしまう。
 どれほど時間をかけ心をこめて描いても、意味がない。独りの現実に激情が吹き出した。
「受け取る相手のいない絵を描くしかない、僕の気持ちをどうしろというんだ!」
 返って来たのは、「相続放棄の手続きをされますか?」の冷たい一言だったけれど。
 僕が欲しい言葉は永遠に手に入らない。
 僕にはシオンがわからない。
 シオンを遺した祖父は、もっとわからない。
 血が繋がっていたとしても他人と同じだ。
 祖母の姿にカスタマイズされていると知ってからは、孤独感が上乗せされた。
 けれど。半年もすればわかることがある。
 祖父の事を聞けば、無機質に教えてくれた。
 好んだ食べ物。ソックスを嫌い足袋をはいていたこと。こだわりの綿の肌着があって、いつも取り寄せていたこと。
 語られるすべてはありのままで、シオンの感情が削られているから、祖父が近くなる。
 胸の胸ポケットにいれた携帯ポートレートには、生まれたばかりの母を抱く祖父母と、僕を抱く両親の写真をいつもいれていたこと。
 見たいと言えば、あっさり僕にくれた。
 望むまで渡すなと言われていたそうだ。
 泣きたくなるぐらい、写真は色あせている。
 何度も何度も開いていたのだろう。ずいぶん携帯ポートレートはくたびれていた。
 僕らを探しだすくらい、簡単だったろうに。
 ほんの少しだけ、依怙地で素直になれなかった祖父のことがわかった気がした。祖父も僕等と「家族の時間」を共有したかったのだ。
 僕は描く。祖父が夢見た家族のいる風景を。
 笑っている母。照れくさそうな父。
 微笑んでいる祖母。厳めしい顔の祖父。
 もういない家族を前に、僕は「動かないように」と注文をつける難しい顔で、家族の肖像をキャンパスの中でも描いていた。
「シオン、頼みがある」
 僕はキャンパスに色をのせながら、かたわらのシオンに声をかける。
 人の死は二度あると聞く。
「いつか僕がこの世をおさらばしても、僕の家族の事を覚えておいてほしい」
 ハイとシオンはうなずいた。
「私の機能が停止するまで、今日までの事も、明日からの事も、記録し続けます」
 記憶ではなく記録なのが彼女らしかった。
「ありがとう」
 キャンパスの中でイーゼルに向かう僕の横に、ひっそりと立つシオンの姿も描いた。
 草原の緑。向日葵の黄。立葵の赤。雲の白は、消しゴムの白よりもはるかにまぶしい。
 なによりも美しく広がるのは、夏の青い空。

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公募用のSSに送った作品の第一校
原稿用紙5枚に収まらなくて、削りに削ったのでどうしても未消化。
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