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短編集 ふんわりと

狭間橋

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 僕が住んでいる街には、狭間橋と呼ばれる橋がある。
 時と空間の狭間の橋、という意味らしい。

 橋のたもとに大きな柳があり、欄干に刻まれた文字は風化して読みとれなかった。
 夜だけではなく昼にだって、摩訶不思議なことが起こってもおかしくはない雰囲気なのだ。
 商店街と住宅街を結ぶ主要な橋なのに、正式名称を誰も知らなかった。

 この狭間橋、異界につながっているらしい。
 橋の欄干を越えたモノが神隠しにあうのだ。 
 嘘じゃない。
 僕は消える瞬間に立ち会ったことがある。

 その頃の僕は大学生だった。
 夕闇が迫る頃。
 街灯がないから薄暗く、不安をあおられるので知らず急ぎ足になる。うつむきがちに進んでいたら、ニャァとかぼそい声が聞こえた。
 目をやると、子猫が橋の欄干の上をトテトテと歩いていた。
 少し歩いては川をのぞき込み、少し戻っては石桁をのぞき込み、どうやら困っている。
 足取りが見るからに危なっかしくて仕方ない。

 お節介にも降ろそうと手を伸ばしたら、思いきり警戒された。
 そのうえ、フーッと尻尾をふくらませた子猫が、逃げようと後ろに下がった拍子に川へと落ちてしまった。

 事件である。
 慌てて欄干から身を乗り出して川をのぞいたけれど、子猫の姿はなかった。
 落ちた水音さえ聞こえてこない。
 あるのは日常と変わらぬ川のせせらぎだけ。
 最初から存在しなかったように、猫そのものが消えてしまった。
 ここではないどこかへ、行ってしまったのだ。

 少しだけうらやましくなる。
 大学への進学を機に故郷を離れた僕は、気候も風習も違うこの地ではひどく浮いていた。
 自信を持ってここが居場所だと言いきれず、どこか遠くに行きたくてしかたなかった。
 ここは僕の居場所ではないという違和感にさいなまれ、僕だけの居場所が欲しかったのだ。
 まぁ、神隠しの先が、僕の居場所であるはずはないのだけど。

 今の僕も就職はしたけれどあの日と同じ心もとない気分で、ビニール袋をプラプラと揺らしながら狭間橋を渡っている。
 何年もたつのに全く成長してない気がして、ため息をついた瞬間、手からビニール袋がすっぽ抜けた。
 僕の晩酌セットは白い弾丸みたいに勢いよく飛んで、あっと思った時には橋の欄干を越えてしまう。
 思わず欄干から川面をのぞいたけれど、そこにあるのは川のせせらぎだけだった。
 鰹節と豆腐とビールが異世界に飲み込まれてしまった。

 子猫が消えた日時と同じだ。
 いや、猫が消えるより深刻な状況ではないけれど、商店街に戻って買い直す気にはなれない。
 ため息を一つ落とすとあっさりあきらめ、アパートに向かって歩き出そうとした僕は目を疑った。
 橋の先に道はなく、行き止まりになっていた。
 あるはずの住宅街へ続く道は闇に塗り込められたような黒一色で、橋のサイドにある欄干の果てを塞ぐように横一文字の欄干が横たわっている。

 行き止まりになった欄干の上に、ちょこんと猫が腰かけていた。
 猫はまるで人のように膝に手を置き、僕を見て首をかしげている。
「落としたのは自転車かにゃ? それとも看板なのかにゃ?」
 猫が流ちょうな日本語をしゃべるので、思わず二度見してしまう。
 言葉が終わらぬうちに、橋の上に自転車と看板がポンと現れる。
 驚きすぎて、すぐには声が出なかった。
 息を吸って、吐いて、呼吸を整えてから問いかける。

「君、一人なの?」
「詮索好きは嫌われるにゃ!」
 ピシャリとはじいた猫は、舐めるように僕を観察して、くふーんと鼻を鳴らした。
 どうやら値踏みされているらしい。
 でも、嫌な感じはしない。むしろ、会話を楽しめる相手かどうか、興味津々といった感じだ。

「いや、僕が落としたのは晩酌セットだ」
 正直に答えると猫はえらそうな調子で「ほうほう……」などと頷いている。
 話し相手に選ばれたのかもしれない。
 にんまりと笑った口もとが嬉しそうだった。
「ガラス製のグラスもお勧めにゃ。漆器もあるにゃ」

 どうしてそうなる?
 まるで関係ないじゃないか! と喉元まで出かけた言葉を僕はぐっと飲み込んだ。
「いや、僕が落としたのはビールと鰹節と豆腐だから」
 言葉を尽くして切り子の細工がいいとか漆器の塗りの素晴らしさを語る猫には悪いが、僕は一切興味がない。

 僕がここにくるまで、随分と退屈だったのだろう。
 猫の話は途切れることがなかった。おまけに猫が物の名前を言うたびに、ポンポンとその品物が現れた。
 どうせ引き取り手のない橋の欄干から落ちてきたものだから好きに持って帰れと、押し売りの調子で言いきって実に気前がいい。
「財布と指輪で手を打つのもありにゃ! 財布は特に中身付きで選り取り見取りなのにゃ」

 おまえは悪魔か。
 ぐいぐい迫ってこられても、それはどう転んでも他人の財布だ。
 思う存分に欲を出せと勧められたけれど、きっぱりと僕は断った。
 豆腐と鰹節とビールがあれば、十分満足なのである。

「僕は晩酌のお供が戻ってきたらそれでいい」
 む~んと眉根を寄せ、何故だか猫は困っている。
 昔話だと正直者が得をして欲張りは損をするけれど、ここでは欲を出さないと都合が悪いらしい。

「ふぅ~む、遠慮などせず、好きのものを選ぶと良いにゃ」
 なんでも持っていけと迫られても、要らない物は本当に要らない。
 置き場に困るので断固拒否だ。

 持っていけ、いらない! を何度も繰り返し、とうとう猫はあきらめたようだ。
「しかたない、これかにゃ?」
 見覚えのあるビニール袋を渡されたけど、中を見てつい首をかしげてしまう。
あるべきものがない。

「鰹節は?」
 猫が口もとを急いでぬぐったのを僕は見逃さなかった。
「食ったな」

 コラ! なんて怒ってはいないが、責める僕の眼差しに耐えかねたのか、ぷいっと猫は横を向いた。
「細かい事を気にすると出世できないにゃ!」
 ほっといてくれ、よけいなお世話だ。
 それに細かくはない。当然の指摘だ。

 猫は悪態をついたものの悪い事をしたと思っているらしく、身体がプルプルと小刻みに震えている。
 さっさと帰れと何故だか拗ねた調子に、もう一度「君は一人なの?」と問いかけると「孤高の猫はいつも一匹にゃ!」とはじかれた。
 帰れと言いつつ、帰したくないと言いたげな猫の横顔に、妙な既視感を持った。
 この猫も、僕と同じで居場所を持たない不安定さを抱えているのかもしれない。

「帰れ帰れ、ここはオイラだけの世界だから、もう話なんてしてやらないにゃ!」
 落ち付きなく揺らされる尻尾に、僕は笑いだしたくなった。
 この猫の「帰れ」は「帰らないで」に等しい意味を持っている気がする。
 僕の事を気にしているくせに、拒絶している風を装った態度をとっていて、寂しくて仕方ないと表情に出ているのでわかりやすかった。

「鰹節のかわりをもらってもいいかな?」
 ふと思いついて、ためしに聞いてみたら、くふぅ~んと猫は鼻を鳴らした。
「ほらみろにゃ~欲しい物があるなら好きに持っていけばいいにゃ!」

「うん、ありがと」
 僕の一番欲しいものに手を伸ばす。
「なら、君で」
 ヒョイと猫を抱きあげる。

 この猫が数年前に僕の手から逃れ、異世界に落ちた子猫なのかはわからないけれど、やわらかなサバトラの毛並みと淡いグリーンの瞳は懐かしい感じがした。
「僕のうちにおいで」 ビックリしたように猫は手を突っ張ったけれど、それはほんの一瞬だけだった。

 おっかなびっくりの様子で、パフパフした肉球でためらいがちに僕の手に触れてくる。
「オイラでいいのかにゃ……?」
 オドオドと「ごめんにゃ。鰹節を食ったのにゃ」と続けるので、笑いながら「かまわないよ」と僕は答える。

 頬を寄せると、やわらかい毛はお日様の匂いがした。
 どこかに落としてしまった幸福みたいに、懐かしいぬくもり。
 ふっと僕らを包んでいた空気が変わる。
 これもひとつの縁だろう。

 気がつくと僕は、人がいきかう狭間橋の真ん中に立っていた。
 ザワザワと人の営みの声があふれている。
 僕は、いつもと同じ日常に戻ってきた。

 狭間橋の向こうに、住宅街が見える。
 帰宅を急ぐ人の流れも、ありふれた日常だ。
 僕が迷い込んだ、不思議な場所はどこにもなかった。

 だけど、これは夢ではない。
 狭間橋から連れ出した猫が、僕の腕の中でゴロゴロとのどを鳴らしていた。

「一緒に暮らそう」
 この子のいる場所を、僕の帰る場所にしよう。
 ゆっくりでいい、僕の居場所をつくっていける気がした。
 確かめるようにあたたかな猫の身体を、僕はそっと抱きしめた。

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