スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←やわらかで長いキス   第二話 涙 →やわらかで長いキス  最終話 二度目のキス
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


もくじ  3kaku_s_L.png 短編集 恋の卵
もくじ  3kaku_s_L.png Making Twilight
もくじ  3kaku_s_L.png 詩集 kurayami
総もくじ  3kaku_s_L.png 交換詩・贈答物語 七色の海
もくじ  3kaku_s_L.png 潮騒の詩
総もくじ  3kaku_s_L.png 英雄のしつけかた
総もくじ  3kaku_s_L.png 短編集 ちょっぴり異世界
総もくじ  3kaku_s_L.png ミルキィ☆ロール
総もくじ  3kaku_s_L.png 喫茶ペロリストシリーズ
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【やわらかで長いキス   第二話 涙】へ
  • 【やわらかで長いキス  最終話 二度目のキス】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

短編集 恋の卵

やわらかで長いキス   第三話 ありがとう、サヨナラ

 ←やわらかで長いキス   第二話 涙 →やわらかで長いキス  最終話 二度目のキス
 冬が終わる。
 卒業式が近づく
 恥ずかしいくらい泣いてしまったあの日から、何度か先輩と一緒に帰った。
 ゲタ箱や校門で先輩が待っていて、声をかけられる。
 先輩にとっては遠回りになるのに、綾ちゃんと一緒に歩きたいからと言って、ふわりと笑う。
 それが嬉しくて、ちょっぴり苦しくて。

 ただそれだけ。
 特別なことは話さなかったし、特別なことを言うのが怖かった。
 そう、私たちは付き合っている訳じゃない。
 他の人よりもほんの少しだけ近い、先輩と後輩の距離を求められていた。
 ほんの少しでも気持ちを伝えようとしたら、この穏やかな時間が消えてなくなってしまうとわかっていたから、なんでもないような今を大切にしたかった。

 綾ちゃんって宝物みたいに名前を呼んでくれる先輩を好きになる。
 私の歩調に合わせて大きな歩幅をそれとなく緩めてくれるたび、先輩を好きになる。
 絵を描くのもいいけどデザインも写真も興味深いねって、穏やかな口調で語る先輩も好きになる。
 タコ焼きを買ってくれたけど実は猫舌で、タコをだけ先に掘り出してとろけた熱々の生地を私に食べさせようとする、子供っぽい先輩も好きになってしまう。

 先輩といて感じる「好き」が、私の中に降り積もる。
 北国の雪みたいに、深海のマリンスノーみたいに、先輩で心がいっぱいになる。
 付き合っている訳じゃないけど、側にいることが嬉しかった。
 先輩といるだけで、なにげない時間がキラキラと輝く想い出になる。
 一緒にいるだけで、特別だった。

 なのに、どうして?
 付き合えない、と断言された鋭さが、胸の奥に突き刺さって痛い。

 私がその理由を知ったのは、ずっと後。
 卒業式が終わってからだった。

 先輩は他県の大学に進学するのだ。
 最短で四年は地元を離れるし、就職で地元に帰ってくるとは限らない。
 それを知って追いかけようと思ったけれど、とっくに先輩は帰った後だった。
 小さな花束と万年筆を贈ったのに、サヨナラって笑うだけで、直接は理由を教えてくれなかった。
 それがあまりに先輩らしくて、でもやっぱり切なくて、胸が苦しい。

 教えてくれたのは同じ部活の里奈ちゃんだ。
 ごめんね、と謝る里奈ちゃんはひどく居心地が悪そうだった。
 一緒に帰っていることも、綾が先輩のこと好きなのも知っていたけど……と里奈ちゃんは頭を下げる。
「綾には内緒にしてくれって、吾妻先輩がみんなに頼んだの」

 遠距離恋愛なんて簡単じゃないし、待たせても戻ってくるとは限らない。
 だから今は、笑ってサヨナラが言えたらそれでいい。
 悲しそうに笑われると、何も言えなかったって。

 ごめんね、と繰り返す里奈ちゃんに、私は「そっか……」と答えるのがやっとだった。
 今まであふれていた「どうして?」への答えはもらったけれど、やっぱり「どうして?」が消えない。
 先輩の気持ちはなんとなくわかるけれど、自分勝手だ。
 それは付き合えない理由になったとしても、私の好きを受け取れない理由にならないと思うから。

 どうして? どうして?
 好きって言ったのに、どうして私の気持ちを置き去りにするの?
 せめて私からの「好き」も受け取ってほしかった。
 自分だけ言って満足して、私に「好き」を言わせてくれないなんてひどい。

 もう二度と会えない。
 道ですれ違うような偶然もない。
 遠く離れた私の知らない土地で、私の知らない生活を始める。
 めまいがしそうだった。
 サヨナラの意味が、圧倒的な勢いで迫ってくる。

「泣かないで」
 おろおろしている里奈ちゃんにハンカチを差し出され、私は自分が泣いていることにやっと気がついた。
 嗚咽を飲みこもうとしたけれど、あふれてくる涙が止まらない。
 何も説明していないのに、里奈ちゃんはなんとなく事情を察したみたいだった。
 泣きやむまで背中をポンポンと優しく叩いて、私のかわりに「先輩のバカ!」と何度かつぶやいていた。

 恥ずかしいぐらい泣いて、やっと落ち着いた頃。
 どんな表情で顔をあげればいいかわからなくて、もぞもぞと抱きついていた手を動かしていたら、里奈ちゃんがギュっと強く抱きしめてきた。
 今まで自分がしがみついていたことも忘れて、その強さに驚いてしまう。
 どうしていいかわからなくなっていたら、綾だけが泣くことないよってささやいてくる。

「安心して。先輩が引っ越す日、部員を総動員して調べるからね」

 その言葉は嘘じゃなかった。
 もっと驚いたのは、里奈ちゃんが声をかける前に吾妻先輩の予定を、同じ部活の人たちがそれとなく調べてくれていたことだ。
 私たちのつかず離れずの様子があまりに不安定だったから、周囲にも多大な心配を与えていたみたいだった。
 吾妻先輩は私のことを好きだって言いつつ付き合えないって他の部員にも言っていたらしく、訳のわからない行動をしていると他の人たちも思っていたみたいで苦笑するしかない。
 たとえ離れる日がわかっていても、一緒にいられる今を大事にすればいいのにねって、里奈ちゃんはブツブツとぼやく。
 吾妻先輩って頭いいのにバカだよねって、そんなよけいなセリフまでついていて、思わず苦笑してしまう。
 バカってわけじゃないけど、優しさの使い方を間違えていると私も思う。

 そして、数日後。
 私たちにできることはここまでだからって、電話越しに勢いよく背中を押された。
 里奈ちゃんが握りこぶしをつくって応援している姿が見える気がした。

「頑張れ、綾。後悔しないように、とにかく頑張れ!」

 うん、と私はうなずいた。
 未来のことなんてわからない。
 ただ、今を後悔で満たしたくはないから。
 私は先輩に会いに行く。

 あんなにグルグルと今まで悩んでいたのに、決心するとそれは驚くほど簡単だった。

 先輩が旅立つ日。
 早めに家を出て、先輩の家の最寄りの駅で待つ。
 変な例えだけど、出陣前の武将みたいな気持ちだった。
 未来のことなんてどうでもよくて、とにかく今の私の気持ちを伝えようと決意を固める。

 出立するだいたいの時間は聞いていたけれど、もしものことがあるから、二時間も前から改札の近くに立っていた。
 それほど大きな駅ではないけれど、人の流れが早いからうっかりしていると見過ごしてしまいそうだ。

 会いたいけれど、会えないかもしれない。
 そんな不安と期待とが入り混じる。

 余裕がなくなって胸がいっぱいになりそうな時、吾妻先輩が現れた。
 ほとんどの荷物は発送しているらしく、ディパックをひとつ背負っているだけだった。
 私を見つけると、大きく目を見開いた。

「綾ちゃん?」
 どうして? と問いかけられて、私は精一杯の笑顔を向ける。
 先輩の驚きが本物だったので、心の中で出立日時を調べてくれた里奈ちゃんたちに感謝する。
 私が来ることを知っていたら、引っ越す日時を変えていたと予想つくぐらい、吾妻先輩は驚愕していた。

「見送りにきました」
 新幹線ホームまでついていきますと告げると、先輩は一瞬空を見上げて絶望的ともいえるため息を吐き出した。
 苦痛なのか喜々としているのかわからない表情でしばらく悩んでいたけれど、ふっと肩をすくめると両手をあげる。
「降参、綾ちゃんには敵わないや」

 おいで、と手を差し出されて、どうしていいかわからなくなったけれど、おずおずと私も手を伸ばす。
 先輩は当たり前の調子でキュッと手を握る。
 そして「いこう」と言って、私に合わせたゆるやかな歩調で歩きだす。
 在来線に乗って、新幹線が発着する駅まで移動する。

 本当は私から、なにか言うべきなんだと思う。
 だけど手を握った瞬間に頭の中が真っ白になって、臆病な声は喉の奥に張り付いた。
 先輩の顔を見た途端、迷いがむくむくと顔を出す。
 私の気持ちを一方的に届けることが、本当に正しい事なのかわからなくなった。

 私がどんなに「好き」って言ってもただそれだけで、私の「好き」は駅のホームに置き去りにされることがわかっているから。
 私は先輩に「好きだよ」って言われて嬉しかったけれど、それと同じくらい今が悲しいのに、先輩に対して同じことをしてもいいのかな?

 その事に気がついた途端、何を言っていいかわからなくなって、私は先輩の手をただ強く握りしめる。

 先輩も無口だった。
 でも、怒っていないことはその表情でわかった。
 しっかりとつないだ手が熱い。
 指と指をからめあうような手のつなぎ方は、はじめてだった。
 後で知ったけれど、恋人つなぎと呼ぶらしい。

 好きって言う?
 また会いたい?
 ずっと待ってる?
 付き合って欲しい?
 それとも、サヨナラ?

 別れの時間が迫っているのに、私たちの言葉は迷子のままだった。
 言いたいことが多すぎて、会話のきっかけすら見つからないまま、新幹線のホームにたどりつく。
 ピュウッと冷たい風がホームを駆け抜けていく。
 手をつないだまま、私たちは無言で立ちすくむ。
 からめあった指だけが、離れたくないと主張するように熱を持っていた。
 何も言えないままどんどんと時間が過ぎていく。

 先輩が「もう行くよ」と言い出しそうな雰囲気に、私はやっと顔をあげた。
「吾妻先輩」と呼びかけると同時に、先輩も「綾ちゃん」と私の名前を呼んだ。
 くしくも同じタイミングで名前を呼び合って、視線をからめあわせるように見つめあう。
 先輩の瞳の中に、泣きそうな私がいた。

 このまま離れたくないと思った。
 ついていくことはできないけれど、また会いたいと思った。
 今日が最後になるなんて嫌だった。
 あふれてくる気持ちと一緒に、言葉がはじけた。

「吾妻先輩、好きです」
 うん、と吾妻先輩はうなずいた。
 僕も同じ気持ちだよって伝わってくる、穏やかな微笑みだった。
 だけど「綾ちゃん、好きだよ」とは言ってくれなかった。

 言葉のかわりに、スッと身をかがめる。
 とっさのことで、私は動けなかった。
 急すぎて目を閉じることもできない。

 風に舞う花びらみたいな優しさで、先輩のぬくもりが落ちてくる。
 目じりから頬をたどり、気がつくと唇と唇が触れ合っていた。
 閉じられた瞼が隠しているから先輩の涼しげな瞳は見えなかったけれど、長いまつ毛が揺れている。

 絵筆で触れるような、やわらかな長いキスだった。

 かすかに震える熱に、息が詰まる。
 もどかしくて、もっと触れ合いたくて、離れがたくて。
 行かないでって我儘すら簡単に封じてしまう、自分ではない熱に頭の芯がクラクラする。

 ゴウッと強い風が巻き起こり、先輩の乗る新幹線がホームに滑り込んできた。
 それが合図だったみたいに、重なっていた唇が離れた。

「ありがとう、サヨナラ」

 その一言を残して、先輩の背中が遠ざかる。
 振り返りもせずに、新幹線に乗り込んでいく。
 想いごとふりきるような潔さで歩み去るから、先輩って呼び止めることもできなかった。

 私、キスした。
 触れただけなのに、想像していたよりも強い先輩の想いを感じた。
 好きだって言われた何倍も強く、求められている気がした。

 好きで、好きで、軽く触れただけなのに、どうしようもなくて。
 だけど、明確な別離で。
 キスしても、ちっとも甘くなかった。

 ありがとう、サヨナラ。

 残された別れの言葉をかみしめながら、そっと指先で唇に触れる。
 もう二度と、会えない。

 初めてのキスは、涙の味がした。

にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村


人気ブログランキングへ

関連記事
スポンサーサイト
もくじ  3kaku_s_L.png 短編集 恋の卵
もくじ  3kaku_s_L.png Making Twilight
もくじ  3kaku_s_L.png 詩集 kurayami
総もくじ  3kaku_s_L.png 交換詩・贈答物語 七色の海
もくじ  3kaku_s_L.png 潮騒の詩
総もくじ  3kaku_s_L.png 英雄のしつけかた
総もくじ  3kaku_s_L.png 短編集 ちょっぴり異世界
総もくじ  3kaku_s_L.png ミルキィ☆ロール
総もくじ  3kaku_s_L.png 喫茶ペロリストシリーズ
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【やわらかで長いキス   第二話 涙】へ
  • 【やわらかで長いキス  最終話 二度目のキス】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 現在非公開コメン卜投稿不可です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【やわらかで長いキス   第二話 涙】へ
  • 【やわらかで長いキス  最終話 二度目のキス】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。