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お題からのツイノベ風のSS集

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短編集 恋の卵
「やわらかで長いキス」 第一話 告白
「綾ちゃん、好きだよ」
夕暮れ時。
吾妻先輩が突然そう言った。
だけど私は、振り返らなかった。
文化祭に美術部として展示する作品を描くのに夢中で、純粋に聞こえていなかった。
言い訳になってしまうけれど、もう少しきりのいいところまで仕上げたいと思って必死に筆を動かしていたから、私に向けられた言葉だとすぐには気付けなかった。
だから。
そのときの先輩がどんな表情をしていたのか、私にはわからない。
ほんの少しでも振り返っていたなら、先輩の気持ちが少しはわかったかもしれないのに。
もしも、なんてありえないことを想像して、チクリと胸が痛む。
知りたいと思ったときには、いつも、いつも、必要な「その時」が通り過ぎていて、拾い上げることすらできなくなっているのが悲しい。
時が過ぎてから幾度となく思い返すとわかっていたら、あの瞬間に振り向いていたのに、と。
ねぇ、と明らかな呼びかけが続いたことで、やっと私は顔をあげた。
他の部員の姿が消えていたことに、集中が途切れて遅ればせながら気がつく。
いつのまにか先輩と二人きりになっていた。
振り返ると夕日に照らされた吾妻先輩が、ほのかに輝いて見えた。
綺麗だった。
もともと整った顔立ちをしているから、なんだか神々しくて圧倒される。
夢の中にいるような気持で先輩を見つめてしまう。
少し神経質に見える話しかけづらい感じが薄らいで、とてもやわらかい表情をしていた。
光が優しく縁取ることで、少しとがった輪郭も淡く溶けて見えた。
ステンドグラスのように透明な青が印象的な絵を描く人だから、やわらかな紅に染まっているのが不思議だった。
整った目鼻立ちもあまりに綺麗だから、思わず息を飲んで何度もまばたきしてしまった。
「綾ちゃん、聞いてる?」
「すみません、今、聞いてなくて……」
緊張しながら謝罪する。
綾ちゃんって呼ばれたことも初めてだから、どう反応していいのかわからなくなって全身が強張ってしまう。
もともと話すのが苦手で、キャンパスに向かうことで自己表現をしようと思ったのが絵を書くきっかけだった。
あいさつだけでも緊張するし、他人と会話することにも慣れない。
うまくしゃべろうとすると声が軽く震えてしまうから、先輩の姿に見惚れていたなんてとても言えなかった。
ちゃんと向き合わなくちゃ……そう思ってそっと筆をパレットの上に置く。
私を見つめる先輩の眼差しがまっすぐだから、目をそらせなくて少し怖かった。
同じ部活でも縁のない人だと思っていたから、こんな風に見つめあう日が来るなんて。
もともと吾妻先輩も饒舌な人ではないから、あらためて個人的な会話をするのは初めてかもしれない。
息のつまりそうな沈黙が落ち、そのいたたまれなさを壊したくて「ごめんなさい」と再び謝ると、そっか、と先輩は軽く笑った。
そのまま軽く伏せられた瞳が少し陰ったことに、私はなぜか気がついてしまった。
先輩? と問いかける間もなく、良く響く声がハッキリと告げる。
「綾ちゃん、好きだよ」
え? と驚きで目を見開いてしまう。
突然すぎてすぐには理解できなかった。
先輩の視線は床に向けられたままだったけれど、それは怖いぐらい優しい声だった。
好きって、好き?
私、告白された?
驚きすぎて、好きって言葉が頭の中をグルグル回る。
意味はわかるけれど、その意味が私には不似合いすぎて息がつまった。
なにか言わなくちゃと思って口を開きかけても、頭の中が真っ白になって言葉が浮かばない。
ドキドキして、胸が苦しい。
パクパクと口を動かすだけで声の出ない私に、プッと先輩は吹き出した。
そっと伸びてきた手がクシャリと私の頭をなでて、まるで金魚みたいだね、と笑っていた。
キャンパスに向かう真剣な顔しか見たことがなかったから、その朗らかさも意外だった。
一瞬一瞬で、クルクル変わる先輩の表情から目を離せなくなる。
「綾ちゃん、好きだよ……」
再び繰り返されたことで、その意味が私の心を震わせる。
先輩の悲しげな表情は気になったけれど、好きって言われたのは生まれて初めてだ。
条件反射みたいに、好きって言葉に、相応しい返事を考える。
吾妻先輩のことは良く知らなかったけれど、透明な絵はとても好きだった。
私とは違う視線で切り取られた情景に、驚きと感動があった。
真っ白なキャンパスに絵筆で命を噴きこむ後ろ姿も、先輩の真摯な姿勢に似た世界も、透き通るようにまっすぐで、いつも目が離せなくなってしまう。
先輩の見つめる美しい世界が、ずっと私は好きだった。
今まで言葉にしたことはなかったけれど。
それって、私も先輩が好きですって、今すぐ応える理由になるかな?
トクントクンと鼓動が早まる。
これが恋かどうかなんて、わからない。
ただ。もっと先輩のことを知りたかった。
先輩の描き出す世界が好きだから、先輩自身のこともちゃんと知りたくなった。
誰もいない美術室。
二人きりの今なら、いつもと違う一歩が踏み出せるかもしれない。
「先輩、私……」
思い切って口を開きかけた瞬間。
先輩のその長い人差し指が、私の唇をそっと押さえた。
ごめんね、と悲しい声と瞳が、私の動きを縛りつける。
それだけで冷たい指先に封じ込められた私の言葉は、喉の奥にコロンと転がり落ちていった。
雪の結晶みたいに一瞬で消えてしまう、小さな私の勇気。
どうして? と問いかけることはできなかった。
好きと言ったときよりももっと軽い調子で、先輩はなぜか悲しげに微笑んだ。
「ごめんね……好きだけど、綾ちゃんとは付き合えないんだ」

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夕暮れ時。
吾妻先輩が突然そう言った。
だけど私は、振り返らなかった。
文化祭に美術部として展示する作品を描くのに夢中で、純粋に聞こえていなかった。
言い訳になってしまうけれど、もう少しきりのいいところまで仕上げたいと思って必死に筆を動かしていたから、私に向けられた言葉だとすぐには気付けなかった。
だから。
そのときの先輩がどんな表情をしていたのか、私にはわからない。
ほんの少しでも振り返っていたなら、先輩の気持ちが少しはわかったかもしれないのに。
もしも、なんてありえないことを想像して、チクリと胸が痛む。
知りたいと思ったときには、いつも、いつも、必要な「その時」が通り過ぎていて、拾い上げることすらできなくなっているのが悲しい。
時が過ぎてから幾度となく思い返すとわかっていたら、あの瞬間に振り向いていたのに、と。
ねぇ、と明らかな呼びかけが続いたことで、やっと私は顔をあげた。
他の部員の姿が消えていたことに、集中が途切れて遅ればせながら気がつく。
いつのまにか先輩と二人きりになっていた。
振り返ると夕日に照らされた吾妻先輩が、ほのかに輝いて見えた。
綺麗だった。
もともと整った顔立ちをしているから、なんだか神々しくて圧倒される。
夢の中にいるような気持で先輩を見つめてしまう。
少し神経質に見える話しかけづらい感じが薄らいで、とてもやわらかい表情をしていた。
光が優しく縁取ることで、少しとがった輪郭も淡く溶けて見えた。
ステンドグラスのように透明な青が印象的な絵を描く人だから、やわらかな紅に染まっているのが不思議だった。
整った目鼻立ちもあまりに綺麗だから、思わず息を飲んで何度もまばたきしてしまった。
「綾ちゃん、聞いてる?」
「すみません、今、聞いてなくて……」
緊張しながら謝罪する。
綾ちゃんって呼ばれたことも初めてだから、どう反応していいのかわからなくなって全身が強張ってしまう。
もともと話すのが苦手で、キャンパスに向かうことで自己表現をしようと思ったのが絵を書くきっかけだった。
あいさつだけでも緊張するし、他人と会話することにも慣れない。
うまくしゃべろうとすると声が軽く震えてしまうから、先輩の姿に見惚れていたなんてとても言えなかった。
ちゃんと向き合わなくちゃ……そう思ってそっと筆をパレットの上に置く。
私を見つめる先輩の眼差しがまっすぐだから、目をそらせなくて少し怖かった。
同じ部活でも縁のない人だと思っていたから、こんな風に見つめあう日が来るなんて。
もともと吾妻先輩も饒舌な人ではないから、あらためて個人的な会話をするのは初めてかもしれない。
息のつまりそうな沈黙が落ち、そのいたたまれなさを壊したくて「ごめんなさい」と再び謝ると、そっか、と先輩は軽く笑った。
そのまま軽く伏せられた瞳が少し陰ったことに、私はなぜか気がついてしまった。
先輩? と問いかける間もなく、良く響く声がハッキリと告げる。
「綾ちゃん、好きだよ」
え? と驚きで目を見開いてしまう。
突然すぎてすぐには理解できなかった。
先輩の視線は床に向けられたままだったけれど、それは怖いぐらい優しい声だった。
好きって、好き?
私、告白された?
驚きすぎて、好きって言葉が頭の中をグルグル回る。
意味はわかるけれど、その意味が私には不似合いすぎて息がつまった。
なにか言わなくちゃと思って口を開きかけても、頭の中が真っ白になって言葉が浮かばない。
ドキドキして、胸が苦しい。
パクパクと口を動かすだけで声の出ない私に、プッと先輩は吹き出した。
そっと伸びてきた手がクシャリと私の頭をなでて、まるで金魚みたいだね、と笑っていた。
キャンパスに向かう真剣な顔しか見たことがなかったから、その朗らかさも意外だった。
一瞬一瞬で、クルクル変わる先輩の表情から目を離せなくなる。
「綾ちゃん、好きだよ……」
再び繰り返されたことで、その意味が私の心を震わせる。
先輩の悲しげな表情は気になったけれど、好きって言われたのは生まれて初めてだ。
条件反射みたいに、好きって言葉に、相応しい返事を考える。
吾妻先輩のことは良く知らなかったけれど、透明な絵はとても好きだった。
私とは違う視線で切り取られた情景に、驚きと感動があった。
真っ白なキャンパスに絵筆で命を噴きこむ後ろ姿も、先輩の真摯な姿勢に似た世界も、透き通るようにまっすぐで、いつも目が離せなくなってしまう。
先輩の見つめる美しい世界が、ずっと私は好きだった。
今まで言葉にしたことはなかったけれど。
それって、私も先輩が好きですって、今すぐ応える理由になるかな?
トクントクンと鼓動が早まる。
これが恋かどうかなんて、わからない。
ただ。もっと先輩のことを知りたかった。
先輩の描き出す世界が好きだから、先輩自身のこともちゃんと知りたくなった。
誰もいない美術室。
二人きりの今なら、いつもと違う一歩が踏み出せるかもしれない。
「先輩、私……」
思い切って口を開きかけた瞬間。
先輩のその長い人差し指が、私の唇をそっと押さえた。
ごめんね、と悲しい声と瞳が、私の動きを縛りつける。
それだけで冷たい指先に封じ込められた私の言葉は、喉の奥にコロンと転がり落ちていった。
雪の結晶みたいに一瞬で消えてしまう、小さな私の勇気。
どうして? と問いかけることはできなかった。
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