虹猫椿

まったり恋愛・日常・友情などをテーマにした、オリジナル小説や詩も掲載しています。お気軽にどうぞ♪

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アールグレイ 

詩集 Blre blue Cat

今日は少し
かなしい日だったけど

通りすがりのお花屋さんで
ミニブーケを手に入れてみる

花瓶なんて持ち合わせていないから
片付けそこねていた 夏のグラスに
なんとなく集めていたビー玉と水を入れ
テーブルの上に ちょこんと飾ってみれば
私のためだけに咲いた 小さな小さなお花畑

たったそれだけで
今日は少し うれしい日に変わったから

とっておきのカップを出して
レシピ通りに紅茶をいれてみる

強火にわきたつお湯は饒舌で
早く早くと 空気の泡が暴れ出すから
急きたてられるように ティーポットに注ぎ込めば
クルクルと回りながら リーフが踊り出す

蒸らして注ぐ 香り高いアールグレイ
楽しむわたしは 世界で一番 大切な人

紅茶がお好きなら 席に座って
ため息をこぼしそうなあなたは 世界で一番 大切にしたい人

おそろいのカップに 紅茶を注ぐから
どうぞ とっておきの一杯を召し上がれ

大切なわたしと
大切にしたいあなたと
香り高い アールグレイ

たあいのないおしゃべりを交わせば楽しくて
テーブルの上に咲いた花のように 笑顔がほころぶ気がするの

特別なものは なにもないけど

それだけで 満たされて
世界で一番 幸せなひとときになるでしょう
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一樽イッキ 

Making Twilight

 竜族は天を統べる。
 鬼族は地を統べる。
 壮大な力を持つ二つの種族は、致命的なほどそりが合わなかった。
 竜が雷鳴をとどろかせれば、張り合うように鬼が地を揺らした。
 竜が豪雨を呼べば、鬼が山から火を噴きあげた。
 直接刃を交わすわけではない。
 しかしどちらがより派手で目立つ災厄を起こすかを競われれば、たまらないのは空を飛び地の上に暮らす生き物たちだった。

 小さきモノは口々に天の神に乞い願う。
 どうか、この諍いに終わりをくださいと。
 災厄に怯えず、ただその日の糧を得る事に心を砕ける、なにげない日々をくださいと。

 そして、神の決断が下された。
 どちらも優劣をつけられぬ愛し子であることに変わらず、力を誇示し張り合う必要はない。
 世界に安寧の日々をもたらすために、婚礼を持って争いに終焉を望む、と。

 もちろん両種族からは異論が噴き出した。
 今まで理由がないのに競い合っていた相手である。
 そう簡単に受け入れられるはずもない。
 しかし、世界を産み育む神の決定である。
 否やと拒絶すればその温情も失せ、一族そのものが滅びるだろう。
 しぶしぶながらもお互いを受け入れることしかできない。
 伴侶になるべく選ばれたのは竜族の末の姫と、若君と呼ぶには少々とうの立った鬼族の後継者だった。

 そして、和平の宴がはじまる。
 なにしろ両種族にとって、初めての輿入れである。
 互いの威信をかけた華やかさになるのも当然のことだ。
 煌々と輝く灯火に、金銀の屏風が綺羅と輝く。
 翡翠の器に酒は注がれ、山海珍味が所狭しと並んでいた。
 祝いの席についているのはこの世界を生きる者たちの代表で、獣もいれば虫もいる。
 竜も鬼も本性のまま座につけば、客人を怯えさせるだけなので鱗や角は隠さずにいたが人の姿に擬態していた。
 雑多な種族が一堂にそろうことも初めてで、思いのほか賑やかな笑い声に満ちている。
 仏頂面のまま酒の杯ばかり見ている新郎と、角隠し越しでもそっぽを向いているのが丸わかりの新婦という主役をのぞけば、豪華絢爛という言葉がふさわしい華やかな婚礼の席であった。

 宴がはじまってから半時もすれば、酒も入り次第に空気が和んでくる。
 周囲の朗らかな調子に無言で通すと居心地が悪くなってきたのか、鬼の若君は手酌で飲んでいた酒をじっと見つめる。
 そして、自分が呑んでいた杯を空けると、眼差しは床に落としたまま左手を姫君のほうへ差し出した。

「一献いかれよ」
 と、言い終わる前に、カチッと硬質の音がしてはじかれた。
 軽い衝撃は思いもよらぬことで隣を見れば、姫君も杯を差し伸べた姿勢で動きを止めていた。
 奇しくも同時に杯を渡そうとしたのだ。
 驚きに目を見開いて、マジマジと互いの顔を見つめあう。
 こんな顔をしているのかとしげしげと観察し、ふと気付いたように互いに杯を差し伸べ合う。

「まずはそなたから」
「どうぞあなた様から」

 さぁさぁと押し付け合うように杯を渡そうとするけれど、どちらも自分からは受け取ろうとしない。
 次第にそろって眼差しが険しくなってくる。
「妻たるもの、良人をたて先に杯を受けるのが道理」
「良き背の君なれば、我の杯を受けるのが先であろう?」
 先に呑むのは相手だと、どちらも譲らない。
 とうとう「我が悪いと言うのか?」と同時に怒りだした。
 「そんなことは言ってない!」
 重なったあらぶる声に膳を囲んでいたモノたちも箸を置き、なんだなんだと高砂の二人に目をやった。

「俺の酒が呑めぬというのか?」
「我の酒を呑まぬというのか?」
 互いを責める言葉が同じように口からこぼれ出て、そして同時に叫んだ。
「せっかくの好意を無にされるなど、我慢がならぬ!」
 まなじりを釣り上げるとどちらもお前が悪いとばかりに杯を投げつけあって、仁王立ちに立ちあがる。
 なぜか「勝負だ!」と口論を始めた新郎新婦を、周りにいるモノたちは見つめることしかできない。

「誰か樽を持てい! 先に飲み干したモノの勝ちだ」
「よかろう! 我が勝てば、そなたが先に我の杯を受けよ」
 白木の樽を給仕のモノたちが抱えて持ち込めば、白無垢の姫と羽織袴の若君が仁王立ちでその前に立つ。
「その細い身体に樽酒が入るものか。謝るなら今のうちだぞ」
「ほほ! 我は竜ぞ。これしきの酒、酒のうちに入らぬ。そなたこそ巌のような筋肉しか持ち合わせておらぬではないか。樽酒が胃の腑に収まりきるものか!」

 そこから壮絶な口論がはじまった。
 鬼は酒にはめっぽう強いとか、竜はうわばみにまさるとか、自分の一族はこんなにすごいのだと言い募って勝ち誇ろうとしている。
 祝いの席に諍いはよせと止めるには、ふたりともやたらと息があっているので、余興とばかりに居並ぶモノたちは囃したてはじめた。
 次第に自慢のネタも尽きてきたのだろう。
 口喧嘩のつもりらしいが「鬼のくせに顔がりりしいのが悪い」とか「竜だから白銀の鱗が綺麗すぎて困る」とか、お互いの特徴をあげつらっているのに、のろけあってるように聞こえるのは何故だろう?

「もうよい!」
 叫んだのはどちらが先か。
 言いたい事は言いつくしたものの、血の気の多い竜と鬼のサガは消すことができない。
 プンプンと香る酒精がさらに血をたぎらせる。
 なにしろ長い間、敵同士の間柄。気が合いすぎるからぶつかるなどとは思わない。
 やんややんやと「仲睦まじいことだ」と周囲が盛り上がり、酒の肴にされていることにはお互いに気づいていない。
 何ゆえ勝負をはじめるのか、そんなことすらすっかり忘れている二人であった。
 お互いに意地になっていたものの、初顔合わせとは思えぬほど息もそろっていた。
 互いに目の前の樽に手をかける。

 「いざ、勝負!」

 かかぁ天下か、亭主関白か。
 今後の主導権を握る戦いが、今、始まる。

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おかえり 

詩集 Blre blue Cat

おかえり また会えるなんて思ってなかったよ
なんてのは 全部ウソで

いつか また会えるかも
なんて思っていたことは 内緒にしたいけど本当で

夜明けを待つように あなたを待っていたとか
サミシクテ泣いちゃったと言えばウソになるけど

あなたのいない日々も
わたしには普通の毎日だから
ただ あたりまえに暮らしていただけなんだけど

たまに思い出して
そういえば 元気にしてるかしら?
なんて ちょっとだけ気持ちを向けていたのは本当だから

変わらない調子の「ただいま」は
とても とても 懐かしくて
迎える言葉に迷うぐらい嬉しくなるよ

いつか また会えると思っていたけど
まさか 今になると思っていなかったから

おかえりなさい

他の言葉は思い浮かばないけど
今日の喜びを連れて 明日もきっといい日になる

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僕の戦い 

Making Twilight

「しばらく、そのツラ見せんじゃねぇ」
 容赦ない言葉で、僕は思い切り不愉快を表明する。
 授業が終わって解放感に満たされた教室で、これほど相応しくない言葉もないけどさ。
 俊介の奴が不意打ちでとんでもない言葉を投げつけてくるから、さすがに流せなかったんだよ。

「なぁ、まこっちゃんてさ、本当に男なの?」
 なんてさ。
 もう中学生なんだぞ。

 性別そのものを疑うなんて、いくらなんでもひどい。
 確かに僕は身長が女子と変わらないぐらい低いし、炎天下に出ても赤くなって皮がむけるだけで健康的な日焼けもしない餅肌だし、髪の毛も油断すればクルクルカールするぐらい癖が強いから天使の肖像画に出てきそうって言われる事が多いけどさ。
 それにプラスして、線が細かったり女顔だったり、疑われる要素は少なくないってのも知ってるけど。
 そうだね~なんて簡単に受け入れること、できるわけないだろう。
 手が出なかっただけましだ。
 部活や帰宅でクラスメイトは早めに姿を消していて、教室に僕ら二人だけなのは幸いだった。

「そのまこっちゃんってのもやめろよ」
 まことって振り仮名は打つけれど、一応、新撰組の誠で男らしさが由来なのに。
 中学に入学してからニョキニョキと雨後のタケノコのように身長を伸ばし、野生のシルバーバック並みにガッチリカッチリした腕と逆三角形の身体を手に入れた俊介には、細っこいままでいる僕の気持ちは伝わらない。
 僕のコンプレックスを思いきり刺激する表情で、俊介は「似合うのに……」とぼやいた。

「だいたい、子供の頃は一緒に風呂に入ったじゃないか」
 生まれたままの姿をお互いに見つめあったことだってあるのに、疑いと未練の入り混じった視線を向けられるいわれはない。
 幼馴染みなのに! と強く反発すると、俊介は複雑な表情でポリポリと頭をかいた。
「だってさ、ぜったいおかしいって。なんでそんな華奢で可愛いわけ? 声だってソプラノのまんまだし……今は上がツンツルテンで、下が出っ張ってるかもしれないけどさ。そのまんまってアリエナイよな?」

 おい。今のままがアリエナイって言ったか?
 漫画の見すぎじゃないの?
 出っ張ってるかもしれないってレベルではなくて、ついてんだよ。
 オマエ、僕の大事なトコロが着脱式だとでも言うのか?
 衝撃が強すぎて、返すべき言葉がラインダンスみたいに頭の中をグルグル回る。

「そろそろ、こっちも出っ張ってきてもいいんじゃない?」
 第一ボタンを開けていた僕の襟元を、俊介の指がグイッと引っ張った。
 思いのほか強い力だったのだろう。
 第二ボタンが、プツッとはじけ飛ぶ。

 あ、制服なのに……と思いながら、コロコロと床を転がって行くボタンを目で追っていたら、細い指先がそれを拾い上げた。
 クラスメイトの秋穂さんだった。
 そう言えば日直だったから、職員室に日誌を届けて戻ってきたのだろう。

 シャツの胸元をのぞきこむような姿勢のままフリーズする僕等と目が合うと、秋穂さんは少し困ったように肩をすくめた。
 開いたままの教室の扉から僕たち二人のただならぬ様子に、入るタイミングをはかっていたのかもしれない。

 気まずい。
 ただ、すぐに立ち直った様子でスタスタと普通に近寄ってきて、そっと僕にボタンをくれた。
 コロン、と手の中に落ちてきたボタンは、秋穂さんの手の熱がうつって少しだけ暖かかった。
 特別なことは何も言わず自分のカバンを手にすると当たり前の調子で扉まで歩き、秋穂さんは振り向いた。

「ごめんね、邪魔しちゃって」
 花のように微笑んで、扉は閉められた。
 少し早足で遠ざかって行く足音に、僕はようやく正気に戻る。
 いまだに俊介は僕の襟元を広げて、あまつさえのぞきこんだ格好のままだ。
 タラタラと冷や汗が背中を流れ落ちる。

「わー笑顔で去られると痛いぞ」
 ようやく動けるようになった俊介からこぼれたのは、乾いた声だった。
 それなりに感情のこもったリアクションがないと否定も肯定もできないとぼやくから、僕は「あほかー!」と怒鳴りつける。
 僕らも驚きで動けなかったけれど、秋穂さんもかなり驚いていたに違いない。

 とんでもない誤解をされた予感がする。
 出っ張る予定のない僕の胸をのぞきこむ俊介がすべて悪い。
 秋穂さんは見惚れそうな笑顔で去ったけれど、邪魔って、邪魔って、邪魔って……脳内輪舞が怖かった。

「しばらく、そのツラ見せんじゃねぇ!」
「そりゃムリだろ。クラスメイトだし」

 冷徹な俊介の突っ込みに打ち消され、僕の叫びはガランとした教室に虚しく響く。
 いいや、こんなことで負けてたまるものか。
 変態の俊介に付き合う義理もないんだ。
 僕は健全な男子中学生だぞ。

 秋穂さんの誤解を解くための戦いは、明日からはじまる。

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チーンとレンジで野菜蒸し 

腹ペコのその時に

毎日、暑いですね。
こんなに暑いと「美味しいは正義だー!」なんて言っていても、台所に立つのが嫌になります。
だってさ、炎との戦いなんだもん!
いい歳して「ヤダもんー!」なんて言いたくなるぐらい、真夏の台所は暑い。
何もしなくても暑いのに、炎を出現させるなんて、なんの罰ゲームだ……夏はどこまでも苦手。
とはいえ、お腹はすく。
夏バテしていると「欲しくないなー」って時もあるけど、その「欲しくない」に流されると本格的に倒れてしまうし、冷やっこいものばかり食べていたら更にバテル。
それに、水分をキチンと取るためにも、麦茶は沸かさなくちゃいけないのです。
夏バテが忍び寄ってくる時には、消費火力を抑えながら暖かい食品を!
こんな時に活躍するのは電子レンジだよね☆

用意するのはキャベツ・もやし・キノコ・豚肉(ベーコンも良い)
まずはお皿に、食べやすい大きさに切ったキャベツともやしとキノコを盛り付ける。
その上に、豚肉ベーコンを並べ、軽く酒をふる。
ラップをして、電子レンジで5分ぐらい加熱。
あっという間に野菜蒸しの出来上がり~♪
味付けはお好みで~ポン酢でもドレッシングでも、お好みでOK!

加熱具合が弱いかな~ってたまに不安になるけど、電子レンジから出して2~3分置くと余熱で火が通ってます。
原理を調べてみたら、食品の水分をマイクロ波で振動させて加熱しているので、電子レンジから出してもしばらく加熱は止まらないそうです。

このレンジ蒸し、1~2人の少人数であれば、スーパーで売ってる野菜ミックスを利用すれば、丸ごと別々に買うよりも種類の多い野菜が摂れます。
袋から野菜をお皿に出して、豚肉かベーコンを乗っけて、酒ふってラップして、チーン!
それですぐに食卓に出せるって、いろんな意味で美味しいよ……できる人だよ。←おい!

毎日手をかけてちゃんと料理するのは理想だけど、それどころじゃない日ってあるからさ。
洗い物も減るし、体力も維持できるし、そういう節約もあっていいのさ、と思うのですよ。
うん、とにかく暑いから。
イキノビ優先の今日この頃……まる。

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タンデム・ジャンプ 

短編集 ふんわりと

「俺と冒険してみない?」
 そんな言葉に誘われて、私は空の上にいた。

 上空四〇〇〇メートル。
 富士山より高い位置なのに、小型飛行機は簡単に舞い上がる。
 見下ろせば足元の遥か下方に豆粒みたいな建物があり、人の存在なんてわからなかった。
 非現実な状況は、感覚を鈍らせるのかもしれない。
 現実の出来事なのに実感が持てなくて、高所恐怖症は発動しなかった。
 ただ、とにかく寒かった。
 気温はマイナス二十度ぐらいになるらしいけれど、それを教えてくれた松浦は沸騰しそうなほど興奮して振りきれている。
 すごいすごいとバカの一つ覚えみたいに同じ言葉を繰り返していた。

 確かに初チャレンジのスカイダイビングは嬉しいけどね。
 松浦みたいに無邪気にはじけるなんてとても無理で、高度四〇〇〇メートルにいても、私の気持ちはグズグズと濁ったままだった。
 快晴の空は、まぶしいぐらいの青なのに。

 そう。悪い夢に変えたい事が起こるから。
 先週、会社が倒産して失業してしまった。
 冗談みたいだけど、本当のことだ。
 予兆も予告もなかったし、本当に突然のことで、私自身もいまだに実感が持てずにいる。

 あの日の朝。
 いつもと同じように出社したら、扉に倒産のお知らせが貼られていたのだ。
 どんなに待っても扉は固く閉じられたままで、悪い冗談みたいな冷たい現実。
 どうしていいかわからなくて、声も出せなかった。
 激しく雨が降りしきる中で、傘に叩きつける雨音だけがうるさい。
 会社の入り口には、私と同じように茫然とした社員たちが立ちつくしていた。
 手にした傘が防いでくれるのは雨だけで、足元から崩れていきそうな不安は防いでくれない。

 今、側にいる昨日までの同僚たちも、明日からは二度と顔を合わせない人になるんだなぁって、ぼんやりと思う。
 うっとうしいほどの書類も、面倒だったコピー取りも、もう二度とやることはないのだ。
 いつまでもここにいても仕方ないのだけど、どうやって動けばいいのかわからなかった。

 どん詰まりの気分を一蹴したのは松浦だ。
 元気の塊みたいな声で「今こそ冒険の時だ!」なんて言いだしたのだ。
 陽気でポジティブな彼は、営業の中でもかなり目立つ存在だった。
「困難に打ち勝つには、冒険に旅立つのが一番なんだよ」
 そんな台詞であまりに自信たっぷりに誘いまくるものだから、落ち込んでいるのがバカバカしくなって全員が正気に戻った。
 そして付き合い切れないとばかりに、三々五々に散ったのだ。

 どんなに泣きわめいても会社が倒産した事実は変えられないから、やるべきことをやらなくては。
 私も失業の現実を胸に歩きだしたのに、なんと私は松浦につかまってしまった。
 足を止めてしまったのは自分のせいだけど、他の人に無視されからってよりにもよってフルネームを大声で連呼するなんてひどい。
 松浦は「同期のよしみで付き合ってくれるよな!」なんてご満悦だったけれど、会社そのものがこの世に存在しないのに、同期ってなんなのさ。

 それにしても……絶句するってこういうことだろう。
 本当の冒険だとは思わなかった。
 気を抜けば身体が震えてしまう。

 どうしてこんなことになったんだろう? って疑問が、グルグルと頭の中で踊って止まらない。
 ううん、どうして断らなかったんだろう? が正しいかも。
 富士山よりも高い空の上なんて、現実が家出したみたいだ。

 現状についていけずため息を吐き出した時。
 ご機嫌な松浦と目が合った。
 はしゃいだ調子のままで、松浦はキュッと親指を立ててきた。

「春奈ちゃん、俺、かっこいい?」
 え? と間抜けな声しか出せなかった。
 唐突すぎて、反応の仕方がわからない。
 私の戸惑いをよそに、松浦は意気揚々としていた。
 ワクワクが止まらないって感じだ。

「ほら吊り橋効果ってあるからさ、どう?」
 ドキドキするでしょって期待に満ちたまなざしに、思わず吹き出してしまった。
 本人はかっこいいつもりだろうけど、変なポーズまで決めてお笑い芸人みたいだ。
「残念でした。ほんと調子がいいんだから」
 チェッと松浦がカラリと青空みたいに笑うから、私もつられて笑い返してしまった。
「ドキドキはしないけど、面白くっていいと思うよ」
 そう言うと、なんだそれ、と松浦ははじけるように笑いだした。
 ひとしきり笑った後、窓の外に目を向ける。

「俺たち、ついてるぜ。最高のお天気だ」
 ついてるなんて思えない現状だけど、そうだね、と私も笑い返した。
 倒産案内を見た日と同じように松浦は笑ってる。
 飛行機に乗るまでは突然の失業に震えていたはずなのに、今はパラシュート一つで飛び出す不安でいっぱいで、だけど笑うことしかできなくて。

 私もあの日と同じように内心では戸惑っているのに、今は不思議な気分だった。
 自分の気持ちを置いてけぼりにしてるわけじゃなないけど、ほんの少しだけへこむのを保留にする感じ。
 不安とワクワクが、どちらにも偏らずねじれたマーブルになる。

 着々とスカイダイビングの準備は進んでいた。
「そろそろ飛びますよ」と見守っていたインストラクターにうながされた。
 ジャンプスーツは着ていたしゴーグルもつけていたけれど、これから空へと飛びだすなんて、やっぱり信じられない。
 スカイダイビングの体験コースは、身一つで参加できる。
 一緒に飛ぶインストラクターもジャンプスーツ類などの機材も、撮影のカメラマンも、すべて含まれているのだ。

 マスターたちは慣れた手つきで自分と初心者である私たちをハーネスでつないでいく。
 私も松浦も今日が人生初チャレンジだから、それぞれタンデムマスターがついていた。
 私のように全くの初心者でもタンデムマスターがパラシュートの操作をしてくれるので、身を任せるだけで空の冒険に飛び出せるなんて、松浦に誘われるまで知らなかった。
 背中に人のぬくもりを感じながら、開け放たれた扉の縁に立つ。

 初めてのタンデムフライト。
 先に松浦の組が飛び出した。
 私も一つ息を吸い込むと、マスターの合図に合わせて空に向かって身を躍らせる。
 そのとたん、圧倒的な落下風が押し寄せてきた。
 ともすればゴーグルごと吹き飛ばされそうになり、強風で息ができない。

 どこまでも落ちるだけのフリーフォール。
 私にあるのは、自分の身体だけだ。

 向かい風に歯を食いしばる。
 風を全身で受け止めながら、インストラクターの動きに添いつつ、姿勢を安定させた。
 バランスをとって見えてきた景色に、さらに息ができなくなる。

 青だった。
 ゴーグル越しでもまぶしいほどの青が、視界のすべてだった。
 右も左も上も下も、空の青! 青! 青!
 圧倒的な青が、私を包み込んでいる。

 ポン! と先に飛んだ松浦のパラシュートが開いた。
 続いて、私のパラシュートも開く。
 ポンっと開いた傘の丸さは、色鮮やかな赤だった。
 グンッと身体が急速に浮き上がる。

 色鮮やかな赤い傘は風に乗り、空をすべるように滑空しながら、空の青に溶けてしまいそうだ。
 風に乗る。
 落ちていくばかりなのに、向かい風が私を受け止めて、地上に運んでくれる。
 傍若無人な風があるから、パラシュートは心地よく空を飛べるのだ。

 松浦の「ブラボー!」の叫び声が途切れない。
 希望に満ちたその声に、いつの間にか私の目に涙がにじんできた。
 きっと今は笑うべき瞬間なのに、感動で涙がこぼれそうになる。
 空があまりに綺麗な青だから、泣きたくて仕方ない。

 松浦がタンデムフライトを選んだ意味が、今ならわかる気がした。
 怖さも不安も何もかも押し寄せてくる風みたいなもので、空に飛び出すのは怖いばかりだったけれど。
 透き通るような青に染まった空も、まぶしいほどの太陽も、色鮮やかなパラシュートの赤も、すべてがキラキラと輝いているもの。
 ほんの少しだけ勇気を出せば、未来も変わるって信じられる。

 だってほら、世界はこんなにも美しい。

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ヒンヤリ桃のコンポート 

腹ペコのその時に

夏です。人間には厳しい夏です。
しかし、果物の美味しい季節でもあります。
産直市場に行くと、甘い香りが漂うようになりました~♪
今年の夏は雨量が少なくてお天気がいいので、小ぶりでも糖度が高いそうです。
甘くてジューシーさを増した桃がとうとう出始めましたよ!

桃は歴史のある果物で、古くから愛されてきたようです。
古代中国では単なる果物ではなく病魔や災厄をよせつけない力があり長寿をもたらす不老長寿の実として珍重されていたみたいですね♪
西王母の誕生日に食べるならわしになっていたほど貴重な食べ物だったとか……ちなみに西王母の誕生日は三月三日。
日本の桃の節句と同じって、なんだか不思議な気がします。
現実の桃の節句は花盛りの時期で果実の旬ではないけれど、天空の桃園は桃の実がたわわになっているんだろうなぁなんて空想を広げてみたり♪
魔よけにもなって美味しいなんて、桃ってすごいかもしれない!

スーパーではいまだにお高い桃ですが、産直市場の規格外品はお手頃価格♪
そのまま食べるのもおいしいですが、桃は痛みやすい。
触れかたが雑だっただけで、すぐに茶色くなって傷ついてしまう。
と、いうことで。
一度に食べきれない時には、早めにコンポートにします。

桃を優しく洗い、ケバケバした産毛を洗い流して皮をむき、食べやすい大きさに切ります。
水、砂糖、レモン汁、桃の皮を入れ、沸騰させてシロップを作ります。
沸騰したら桃を入れ一〇分程度煮て、果実が透き通った感じになれば火を切って落としブタをしてそのまま冷まします。
冷蔵庫に入れて保存しても数日持ちますし、冷凍してシャリシャリ感を楽しむのもいいですね♪

あっという間にでき上がるし、桃本来のうまみも割り増しなので、桃をたくさん手に入れた時にコンポートはお勧めかも!
アイスクリームを添えたり、ミントを飾っても可愛いので、夏のデザートには最適です。
しばらくいろいろな品種の桃が出てくるので、桃バイキングも楽しみだ~♪

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ヒンヤリ水切りヨーグルト 

腹ペコのその時に

夏ですね。暑いです。
他に言う言葉を探すのは難しいぐらい、暑い日が続いています。
夏はこれからだというのに、すでにへばりんぼさんです。

熱中症対策に水分を多めにとっていると、それに比例して食欲が失せていく気がします。
固形物があまり欲しくない……色々とレシピ公開していると「嘘つけw」と突っ込んでもらえそうだけど、量は欲しくないのだ。
お腹はすくしグーグー鳴っても、ご飯の魅力値が低空飛行。
低血糖でひっくり返った事があるから、食べないという選択肢はないのだが、口にするものを選んでしまう。

朝は特に食欲が落ちるので、最近はまっているお助け食材といえば!
水切りヨーグルトなのだ~♪

ボールにざるをのせてペーパータオルを置き、プレーンヨーグルトを水切りするだけという簡単さもいい。
寝る前にセッティングしておけば、朝起きると濃厚な水切りヨーグルトが完成しています。
コツというほどではないけれど、ちゃんと成分表を見て寒天の入ってないものを使うと美味しいです。

そのまま食べるとレアチーズケーキっぽいし、トーストやベーグルに塗ってもいい。
個人的にブルーベリーのジャムとのコラボがお気に入りです。
サーモンと水切りヨーグルトのベーグルサンドもおいしかったですよ~ブランチにもぴったりですね。
クリームチーズに似た使い方ができるので、アレンジしていくのも楽しい♪

ザルで水切りしてでてきた水分はホエイと呼ぶのだけれど、牛乳で割ってドリンクにしたり、ホットケーキを作る時に入れたりしています。
ホエイはあまりおいしいとは思わないけど、身体によさそうとだしもったいないから捨ててません(笑)

一度に食べきれない時は、冷凍にしてフローズンヨーグルトにするのもいいですね!
バットに薄く広げて、ドライフルーツや蜂蜜・ナッツなどを散らして凍らせると、ヨーグルトバークというお洒落なアイス・デザートになるんですって。
これは未体験なので、気になってる。
どんな味なんだろう~フローズンヨーグルトはたまに作るんだけどね。
ヨーグルトバーク……名前だけでトキメキがアップする響き。
フルーツやシリアルはないけど、ジャムを乗っけて凍らせてみようかなぁ……美味しいのは間違いないと思うんだ♪

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もちっとぷにっと塩豆腐 

腹ペコのその時に

夏ですね。
とにかく暑いですね。
西日本は毎日のように気温が三十度を超えています。
気がつくと「暑い」と口にしているのですが、カレンダーを見ると夏がはじまったばかりで、気が遠くなりそうです。
ほどよい季節はどこに家出したんだろう……?

暑い日が続くと、台所に立つのがおっくうになります。
気分はバトルです。ただでさえ暑いのに、ガスを使うと脳内に「サラマンダーが現れた!」とテロップが入りそうです。

暑いさなかに、炎と戦いたくなーい!
と、いうことで炎を使わないヒンヤリご飯がふえています。

最近のお気に入りは塩豆腐~♪
作り方はとっても簡単!

豆腐全体に塩をまぶして、キッチンペーパーにくるっと包んで、豆腐の容器に戻すかタッパーに入れて、一晩おいておけば完成!
朝、塩をまぶしておけば、晩御飯にちょうど良くできあがっています。

食べやすい大きさにカットして、オリーブオイルとハーブソルトをかければおつまみにもなります。
チーズ感覚でトマトとを交互に並べたら、カプレーゼ風でお洒落度がアップ♪
シンプルだけどもっちりした感覚で夏に美味しい食材だと思います。
木綿豆腐と絹ごし豆腐のどちらでもできるので、食感の差を楽しむのもありです。

レシピ集には「まるでチーズ?!」と紹介されている塩豆腐。
おつまみとして有能で、ワインにも日本酒にも合いますね。
オリーブオイルに飽きたら、ごま油をチョコっとたらしてもいいし。
ワサビ醤油で食べてもおいしいかもしれません。

チーズと言われたらあっさりしたチーズと思えないでもないのだけど、大豆のふんわりした香りが特徴なので、やっぱり塩豆腐は豆腐って呼びたい……いや、和風チーズと呼んでも別にいいよ。
美味しければそれだけで満足だし。
冷奴に飽きてきた時に、ほんのり塩の利いたもっちりした塩豆腐は御馳走です♪
いつもと違う豆腐の食感を楽しむと気分が変わるし、大豆パワーを補給すると気力と元気が出るよね!
美味しい大豆製品で夏を乗りきるのだ~☆

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かば焼きジューシー 

腹ペコのその時に

 照りつける太陽。
 ジリジリと焦げるような日差し。
 すっかり夏である。
 当たり前と言えば当たり前だけれど、あまりに暑すぎるので脳みそまでとろけそうだ。
 気温三十度までは耐えられるけれど、それ以上は「神様、あんまりだ」とごねたくなる。
 だってさ……だって屋外はさ、アスファルトが日光でフライパン並みに熱せられているから、体温より気温が高いんだもーん!

 と、いうことで。
 すっかりエアコンの虜でいる今日この頃♪
 すごいね、文明!
 誰が発明したか知らないけれど、おかげで生きていける♪

 少し冷静さを取り戻すと、巷にはかば焼きがあふれていた。
 スーパーに行ってもコンビニに行っても、土用の丑の日にウナギを! と美味しそうな写真付きの注文用紙が貼られている。
 こんがり焼かれた肉厚のウナギに、たっぷりのタレかからみ、山椒の香りがふわんとしたら、夏のお疲れも逃げていくだろうか?

 でも、ウナギ。お財布には優しくない。
 むしろ厳しい。お財布に冷気を呼び込むような値段。
 一年に一度だから思いきろうか、それともぐっと我慢をして……なんてグダグダと悩んでいたけれど。

 電波の海を越えてやってきたのはタレ丼情報!
 ええやん、炊き立てご飯とタレのコラボ♪
 味の基本は同じだし、ウナギはなくてもタレがからんだご飯って美味しいよね♪
 これに刻みのりや小口切りのネギを乗っけて、ちょっと山椒でも振れば贅沢じゃね?
 思いたったらスーパーにゴー!

 かば焼きのタレって作れるけど買います。こんなに暑い気温の中で煮詰める作業なんかしたくないから、お財布に多少ダメージを与えても自分に優しく過ごします。
 僕の行きつけのスーパーには、かば焼きのタレが魚コーナーに置いてあります。
 今日のお勧めの魚の上に、タレはたいてい並べてあります。

 最近暑いのでお勧めコーナーには、ちゃんとウナギが鎮座していました。
 その隣にはイワシ。
 あ、これ、作戦だなって思いましたね。
 ウナギは高いけど、かば焼きは夏にピッタリよね~と思う奥様方のハートを、イワシならお財布に優しいわねって、持っていくなんてやっぱり商売上手だ。
 こういうときは、まんまとのせられるのが賢いのだと思う。(え?
 だって、目玉商品は値段がいつもよりやすいし。
 素直にかば焼きのタレとイワシをゲット♪

 イワシのかば焼きって、作るの簡単なんだよ!
 お魚は処理が大変~って敬遠されがちだけど、イワシは手だけで簡単に開けるからお勧めです。
 指を背骨に這わせながら、ミチミチッとはがしていく感覚ははまります。
 開いて骨を取った後で、小麦粉か片栗粉をまぶします。
(僕はタレを煮詰める際の時短を狙って片栗粉を使います)

 フライパンに入れて皮から焼き、焼き色がついたら裏返します。
 八割がた火が通ったら、タレを入れてに詰めながら加熱。
 あっという間にでき上がり~♪

 ご飯にのせてもいいし、レタスやトマトのサラダとお皿に盛り付けてもいいし、イワシのかば焼きもジューシー♪
 美味しく食べて疲れやバテを吹き飛ばし、夏を乗り切るのだー!

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猫乃あお

Author:猫乃あお
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基本はほっこりで、自分ペースで楽しんでいます♪
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