虹猫椿

まったり恋愛・日常・友情などをテーマにした、オリジナル小説や詩も掲載しています。お気軽にどうぞ♪

ザクザクしたアレ 

腹ペコのその時に

 夏が来れば思い出す。
 曽祖母が良く作ってくれた、名前のない料理。
 ひねりも何もなく、僕の家では「ザクザクしたアレ」と呼んでいた。

 作り方はとっても簡単。
 良く冷やした夏野菜を、五ミリ角ぐらいに荒みじん切りにして、醤油・酒・みりん・ごま油と混ぜ合わせ、コーヒーの空き瓶につめて冷蔵庫の中に一晩ぐらい置いておく。
 それで完成。

 夏野菜の種類は特に決まっていないけれど、刻んですぐに食べられる野菜だった。
 多かったのは、キュウリとトマト、ミョウガや青紫蘇が入ってもおいしい。
 新玉ねぎもいい感じで、人参は好みがあった気がする。
 味付けも適当で、2~3倍の麺つゆで代用する日もあれば、醤油を薄めにして塩コンブが入っているときもあった。

 そのまま食べてもいいけれど、冷奴の上にのせたり、そうめんなどの上にのせたり、ご飯の上にのせてもさらっとヒンヤリした食感が、夏のうだるような暑さでばてた身体にも優しい。
 ヒンヤリ感と、しょっぱさと、ゴマ油の芳ばしい香りが、夏バテにはちょうどいいんだよね。
 朝ご飯の後に仕込んでおいて晩御飯にちょいと出すだけなので、毎週食卓にその姿があった気がする。

 しょっちゅう食べていたのだけれど名前が「ザクザクしたアレ」という適当さで、他の家でも食べているのかしら~? なんて思っていたのですが。
 なんと! 山形の郷土料理に似たお料理がありました~すごい!
 僕の家は西日本なのに!!

 その名も「山形のだし」
 ゴマ油は入ってないし、ナスを使った事もないから全く同じではないけどね。
 即席の漬物に分類されるのか~なんて感動しつつ、遠く離れた場所で似た感じの食文化ができ上がっていると思うと、そこはかとなく感動したのである。
 それに「ザクザクしたアレ」と呼ぶより、山形のだしって通りが良い気がする。
 あ、でもゴマ油のあるなしは食べ物としての差が大きいかなぁ……これからは「ひいばあちゃんのだし」とでも呼ぼうかな♪
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すっぱレモン 

腹ペコのその時に

私事で更新ができないうちに、あっという間に夏が来てしまった。
今、何月だ?
な~んて思っても仕方ないぐらい、今年の梅雨は暑いー!
僕はもう夏が苦手で、ほんとにダメなんだー!!
梅雨なのに、梅雨入り宣言してから雨が降った日はたった一日……身体がばてる。
急に暑くなると汗をかきにくい冬しようの身体のままで、熱体制ができる前に熱中症になりそうで怖い。
かといって、スポーツドリンク系は飲みすぎると太るし。←そこ?
(塩分や糖分過多になるんだよな~カロリーオーバーは当然だし)
お茶や水を飲みすぎると体内の成分が放出されすぎるし、水中毒も怖い……胃酸が薄まって胃がもたもたするのも苦手。

ということで。
レモン水ならぬ、レモン茶を良く飲みます。
麦茶やハーブティーにレモン果汁を適当に入れるだけ。
ほんとはレモンの輪切りを入れたらおシャレなんだけど、そこまではしない。
スーパーに行くと確実に置いてあるポッカ○モンをチューッと投入♪
これ、意外と身体の中からスッキリします。
レモンティーがあるぐらいだから、麦茶もいけるんじゃね? と思って入れてみたら、それほど変じゃなかった。

真夏の暑い日。
曽祖母は淹れたてのほうじ茶に梅干しを入れて出してくれた記憶があるなぁ~なんて思いつつ。
梅は酸っぱさの調整が難しい……丸ごと一個投入するしかない!
梅干しは酸っぱいよー思い出しただけでも口の中が酸っぱいよー好きだけど(笑

良いよ、レモン。夏の疲れに最適♪
それに柑橘系はもともと好きなのだ(笑
レモン味は自分のお好みにスッパ調整できてお勧めです♪

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消しゴム(その2) 

短編集 ふんわりと

 木炭で描きだした草原。
 黒一色の世界を切り裂く白は、パクリとあいた心の傷に似ている。
 一年前、消しゴムで僕自身が白く傷つけた。
 長い間放置していた傷と、僕は向かい合う。 
 ひと筆ひと筆、手当てするように僕の一番得意な油絵で、キャンパスに色をのせていく。
 無言のまま筆をすすめる僕の横に、シオンもまた無言で立っていた。
 それが最初は気に障って仕方なかった。
 シオンと初めて会ったのは一年前。
 突然、祖父の遺言を携えて現れたのだ。
 両親が早くに亡くなってしまってから、僕はずっと天涯孤独だと思っていた。
 駆け落ちした両親は親族すべてと縁を切って暮らしていたから、肉親が存在するなんて僕自身思いもよらなかった。
 突然のように祖父の存在を知らされ驚いたし、すでに亡くなったと聞かされて戸惑う僕にシオンから渡されたのは相続の書類だった。
 僕は条件を了承することだけを求められた。
「祖父が指定した場所の絵をすべて僕自身の手で描き、シオンの所有を引き継ぐこと」
 そんな条件を示され、初めて目の前にいる女性は支援アンドロイドだと知った。
 実際に目にする機会は少ないけれど、富裕層では所持者も多く、秘書的作業や介護、家事の切り盛りまで能力は多彩である。
 面倒なのは指定された場所が十か所以上あったことだろうか。祖父の裕福な暮らしを示すように、世界を巡るに等しい土地ばかり。
 何カ月かかるかわからない旅程も、企業に勤めていない僕には難しい相談ではなかった。
 そもそも僕は売れない絵描きなのだ。
 遺産という先払いで、旅費も代金も保障されている、絵を描く旅が始まった。
 シオンは優秀だった。通訳も手続きもシオンがいれば事足りる。
 だけど次第に、僕の心はささくれていった。
 どんな絵を描いても、シオンには心がない。
 木炭だけのただのデッサンでも、やわらかな色彩のパステルでも、重厚な油絵でも、シオンにとっては一枚の絵にカウントされる。
 三十分で書きあげた作品も、一カ月かけた作品も、全く同じただの絵だった。
 消しゴムの一閃で台無しにしても、完成した一枚の絵として数えられてしまう。
 どれほど時間をかけ心をこめて描いても、意味がない。独りの現実に激情が吹き出した。
「受け取る相手のいない絵を描くしかない、僕の気持ちをどうしろというんだ!」
 返って来たのは、「相続放棄の手続きをされますか?」の冷たい一言だったけれど。
 僕が欲しい言葉は永遠に手に入らない。
 僕にはシオンがわからない。
 シオンを遺した祖父は、もっとわからない。
 血が繋がっていたとしても他人と同じだ。
 祖母の姿にカスタマイズされていると知ってからは、孤独感が上乗せされた。
 けれど。半年もすればわかることがある。
 祖父の事を聞けば、無機質に教えてくれた。
 好んだ食べ物。ソックスを嫌い足袋をはいていたこと。こだわりの綿の肌着があって、いつも取り寄せていたこと。
 語られるすべてはありのままで、シオンの感情が削られているから、祖父が近くなる。
 胸の胸ポケットにいれた携帯ポートレートには、生まれたばかりの母を抱く祖父母と、僕を抱く両親の写真をいつもいれていたこと。
 見たいと言えば、あっさり僕にくれた。
 望むまで渡すなと言われていたそうだ。
 泣きたくなるぐらい、写真は色あせている。
 何度も何度も開いていたのだろう。ずいぶん携帯ポートレートはくたびれていた。
 僕らを探しだすくらい、簡単だったろうに。
 ほんの少しだけ、依怙地で素直になれなかった祖父のことがわかった気がした。祖父も僕等と「家族の時間」を共有したかったのだ。
 僕は描く。祖父が夢見た家族のいる風景を。
 笑っている母。照れくさそうな父。
 微笑んでいる祖母。厳めしい顔の祖父。
 もういない家族を前に、僕は「動かないように」と注文をつける難しい顔で、家族の肖像をキャンパスの中でも描いていた。
「シオン、頼みがある」
 僕はキャンパスに色をのせながら、かたわらのシオンに声をかける。
 人の死は二度あると聞く。
「いつか僕がこの世をおさらばしても、僕の家族の事を覚えておいてほしい」
 ハイとシオンはうなずいた。
「私の機能が停止するまで、今日までの事も、明日からの事も、記録し続けます」
 記憶ではなく記録なのが彼女らしかった。
「ありがとう」
 キャンパスの中でイーゼルに向かう僕の横に、ひっそりと立つシオンの姿も描いた。
 草原の緑。向日葵の黄。立葵の赤。雲の白は、消しゴムの白よりもはるかにまぶしい。
 なによりも美しく広がるのは、夏の青い空。

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消しゴム(その1) 

短編集 ふんわりと

 うららかな春の日です。
 穏やかな日です。色鮮やかな春の草原を、純也さんは木炭の黒だけで描いていきます。
 私は「邪魔はするな」と言われたので、純也さんの横に機能を止めて立っていました。

 風が吹きます。頭上にあった太陽が斜めに傾いたころ、イライラと純也さんは「これだから人形は」と言いました。
 怒っているようですが、人型ロボットである私には心の機微はわかりません。支援用なので表情は読み取れますが、相手のしぐさや声音で「怒っている」と判断するだけです。

「なぜ、絵を描かなくてはいけない?」
 私は決められた通りに答えました。
「遺言の遺産を受け取る条件だからです」

 私が支援をしていた総一郎さんは先日亡くなりました。 遺産を相続できるのは純也さんだけなのです。
たとえ駈け落ちした娘であろうと遺産を受け取る権利があるし、親が亡くなっても純也さんが孫であることは変わりないのです。
「そういう意味じゃない。理由を知りたい」
 質問の意味はわかりましたが、総一郎さんはすでにこの世にいないので、私は回答を持ち合わせていません。

 それなりの財産を持っていた総一郎さんは手を尽くして純也さんを探し、売れない絵描きだと知ると遺言を残したのです。
 指定する場所に行き絵を描きなさい、と。
 一か所や二か所ではありません。指定されたのは総一郎さんにとって想い出の場所。
 遺産はその絵の代金なのです。
 旅費も手配も私がすべて管理しているのに、純也さんはとても怒っています。

「遺産放棄するなら……」
「そんなこと、言ってない!」
 ふざけるなよ、と吐き捨てるように、純也さんは横を向きました。
「生きてる祖父が会いに来るならまだしも、遺産と人形を突然送りけられたんだぞ」
 純也さんは苛立っているようでした。
「渡すべき相手もいないのに、絵を描くしかない僕の気持ちはどうなる?」
 大きな消しゴムを手にすると、木炭の草原を切りつけるように横に走らせました。
 否定する白。とがった鋭さをしばらく見ていたけれど、純也さんは立ち上がりました。

「もう今日は終わりだ。明日はちゃんと描く」
 その言葉に嘘はありませんでした。

 毎日、純也さんは絵を描きます。
 草原に行きました。海岸にも行きました。
 独居人を支援する私のような支援ロボットは、口から食物を摂取することも可能です。
 食事をしていると、会話が生まれました。
 純也さんは色鉛筆を使うようになりました。
 絵本のようにやわらかな夏の色でした。

 季節が変わり始めると、総一郎さんの思い出話を聞きたがるようになりました。
 エピソードが増えると使う絵の具の色が増えました。炎に似た色鮮やかな秋の絵です。
 私は求められるままに話しました。
 好んでいた食べ物。ソックスではなく足袋を履いていたこと。頑固なまでに綿のシャツにこだわって、いつも取り寄せていたこと。

 私の事を「紫苑」と呼んでいたこと。

「それは祖母の名前だ」
「私は総一郎さんの希望で、亡くなられた奥様の姿にカスタマイズされています」
 純也さんはしばらく押し黙った後で「写真を持っているなら見せてくれ」と言いました。
 私は一枚の色あせた写真を渡しました。誕生間もない娘さんを抱いた家族写真です。

「そうか……母は大切にされていたんだな」
 純也さんはポツンと呟いて微笑みました。
「頼みがある。あの草原をもう一度描きたい」

 白い消しゴムの線が残ったままの、不完全な絵を仕上げるのでしょう。
 空の彼方まで透き通るような冬の日でした。
 純也さんはキャンパスを取り出し、一番得意だという油絵を丁寧に仕上げていきます。
 消しゴムで白く否定されたキャンパスが、ひと筆ひと筆のせられていく鮮やかな色で、しだいに生まれ変わっていきます。

 緑の草原の中で、総一郎さんが笑っていました。そのかたわらにいるのは私……ではなく妻の紫苑さんでしょう。
 知らない男性と紫苑さんによく似た女性もいました。絵を描いている純也さんもキャンパスの中にいるので、純也さんの心の中にある家族の情景なのでしょう。

「もしこの世からおさらばする日がきても、僕の家族のことは君に覚えていてほしい」
 ハイ、と私はうなずきました。
「私の機能が停止するまで、今日までの事も、明日からの事も、記録し続けます」

 純也さんは「ありがとう」と言いました。
 でき上がった絵を見せてもらうと、なぜか私もいました。人形なのになぜか一緒に笑っています。

 うららかな春の日に似た笑顔でした。

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狭間橋 

短編集 ふんわりと

 僕が住んでいる街には、狭間橋と呼ばれる橋がある。
 時と空間の狭間の橋、という意味らしい。

 橋のたもとに大きな柳があり、欄干に刻まれた文字は風化して読みとれなかった。
 夜だけではなく昼にだって、摩訶不思議なことが起こってもおかしくはない雰囲気なのだ。
 商店街と住宅街を結ぶ主要な橋なのに、正式名称を誰も知らなかった。

 この狭間橋、異界につながっているらしい。
 橋の欄干を越えたモノが神隠しにあうのだ。 
 嘘じゃない。
 僕は消える瞬間に立ち会ったことがある。

 その頃の僕は大学生だった。
 夕闇が迫る頃。
 街灯がないから薄暗く、不安をあおられるので知らず急ぎ足になる。うつむきがちに進んでいたら、ニャァとかぼそい声が聞こえた。
 目をやると、子猫が橋の欄干の上をトテトテと歩いていた。
 少し歩いては川をのぞき込み、少し戻っては石桁をのぞき込み、どうやら困っている。
 足取りが見るからに危なっかしくて仕方ない。

 お節介にも降ろそうと手を伸ばしたら、思いきり警戒された。
 そのうえ、フーッと尻尾をふくらませた子猫が、逃げようと後ろに下がった拍子に川へと落ちてしまった。

 事件である。
 慌てて欄干から身を乗り出して川をのぞいたけれど、子猫の姿はなかった。
 落ちた水音さえ聞こえてこない。
 あるのは日常と変わらぬ川のせせらぎだけ。
 最初から存在しなかったように、猫そのものが消えてしまった。
 ここではないどこかへ、行ってしまったのだ。

 少しだけうらやましくなる。
 大学への進学を機に故郷を離れた僕は、気候も風習も違うこの地ではひどく浮いていた。
 自信を持ってここが居場所だと言いきれず、どこか遠くに行きたくてしかたなかった。
 ここは僕の居場所ではないという違和感にさいなまれ、僕だけの居場所が欲しかったのだ。
 まぁ、神隠しの先が、僕の居場所であるはずはないのだけど。

 今の僕も就職はしたけれどあの日と同じ心もとない気分で、ビニール袋をプラプラと揺らしながら狭間橋を渡っている。
 何年もたつのに全く成長してない気がして、ため息をついた瞬間、手からビニール袋がすっぽ抜けた。
 僕の晩酌セットは白い弾丸みたいに勢いよく飛んで、あっと思った時には橋の欄干を越えてしまう。
 思わず欄干から川面をのぞいたけれど、そこにあるのは川のせせらぎだけだった。
 鰹節と豆腐とビールが異世界に飲み込まれてしまった。

 子猫が消えた日時と同じだ。
 いや、猫が消えるより深刻な状況ではないけれど、商店街に戻って買い直す気にはなれない。
 ため息を一つ落とすとあっさりあきらめ、アパートに向かって歩き出そうとした僕は目を疑った。
 橋の先に道はなく、行き止まりになっていた。
 あるはずの住宅街へ続く道は闇に塗り込められたような黒一色で、橋のサイドにある欄干の果てを塞ぐように横一文字の欄干が横たわっている。

 行き止まりになった欄干の上に、ちょこんと猫が腰かけていた。
 猫はまるで人のように膝に手を置き、僕を見て首をかしげている。
「落としたのは自転車かにゃ? それとも看板なのかにゃ?」
 猫が流ちょうな日本語をしゃべるので、思わず二度見してしまう。
 言葉が終わらぬうちに、橋の上に自転車と看板がポンと現れる。
 驚きすぎて、すぐには声が出なかった。
 息を吸って、吐いて、呼吸を整えてから問いかける。

「君、一人なの?」
「詮索好きは嫌われるにゃ!」
 ピシャリとはじいた猫は、舐めるように僕を観察して、くふーんと鼻を鳴らした。
 どうやら値踏みされているらしい。
 でも、嫌な感じはしない。むしろ、会話を楽しめる相手かどうか、興味津々といった感じだ。

「いや、僕が落としたのは晩酌セットだ」
 正直に答えると猫はえらそうな調子で「ほうほう……」などと頷いている。
 話し相手に選ばれたのかもしれない。
 にんまりと笑った口もとが嬉しそうだった。
「ガラス製のグラスもお勧めにゃ。漆器もあるにゃ」

 どうしてそうなる?
 まるで関係ないじゃないか! と喉元まで出かけた言葉を僕はぐっと飲み込んだ。
「いや、僕が落としたのはビールと鰹節と豆腐だから」
 言葉を尽くして切り子の細工がいいとか漆器の塗りの素晴らしさを語る猫には悪いが、僕は一切興味がない。

 僕がここにくるまで、随分と退屈だったのだろう。
 猫の話は途切れることがなかった。おまけに猫が物の名前を言うたびに、ポンポンとその品物が現れた。
 どうせ引き取り手のない橋の欄干から落ちてきたものだから好きに持って帰れと、押し売りの調子で言いきって実に気前がいい。
「財布と指輪で手を打つのもありにゃ! 財布は特に中身付きで選り取り見取りなのにゃ」

 おまえは悪魔か。
 ぐいぐい迫ってこられても、それはどう転んでも他人の財布だ。
 思う存分に欲を出せと勧められたけれど、きっぱりと僕は断った。
 豆腐と鰹節とビールがあれば、十分満足なのである。

「僕は晩酌のお供が戻ってきたらそれでいい」
 む~んと眉根を寄せ、何故だか猫は困っている。
 昔話だと正直者が得をして欲張りは損をするけれど、ここでは欲を出さないと都合が悪いらしい。

「ふぅ~む、遠慮などせず、好きのものを選ぶと良いにゃ」
 なんでも持っていけと迫られても、要らない物は本当に要らない。
 置き場に困るので断固拒否だ。

 持っていけ、いらない! を何度も繰り返し、とうとう猫はあきらめたようだ。
「しかたない、これかにゃ?」
 見覚えのあるビニール袋を渡されたけど、中を見てつい首をかしげてしまう。
あるべきものがない。

「鰹節は?」
 猫が口もとを急いでぬぐったのを僕は見逃さなかった。
「食ったな」

 コラ! なんて怒ってはいないが、責める僕の眼差しに耐えかねたのか、ぷいっと猫は横を向いた。
「細かい事を気にすると出世できないにゃ!」
 ほっといてくれ、よけいなお世話だ。
 それに細かくはない。当然の指摘だ。

 猫は悪態をついたものの悪い事をしたと思っているらしく、身体がプルプルと小刻みに震えている。
 さっさと帰れと何故だか拗ねた調子に、もう一度「君は一人なの?」と問いかけると「孤高の猫はいつも一匹にゃ!」とはじかれた。
 帰れと言いつつ、帰したくないと言いたげな猫の横顔に、妙な既視感を持った。
 この猫も、僕と同じで居場所を持たない不安定さを抱えているのかもしれない。

「帰れ帰れ、ここはオイラだけの世界だから、もう話なんてしてやらないにゃ!」
 落ち付きなく揺らされる尻尾に、僕は笑いだしたくなった。
 この猫の「帰れ」は「帰らないで」に等しい意味を持っている気がする。
 僕の事を気にしているくせに、拒絶している風を装った態度をとっていて、寂しくて仕方ないと表情に出ているのでわかりやすかった。

「鰹節のかわりをもらってもいいかな?」
 ふと思いついて、ためしに聞いてみたら、くふぅ~んと猫は鼻を鳴らした。
「ほらみろにゃ~欲しい物があるなら好きに持っていけばいいにゃ!」

「うん、ありがと」
 僕の一番欲しいものに手を伸ばす。
「なら、君で」
 ヒョイと猫を抱きあげる。

 この猫が数年前に僕の手から逃れ、異世界に落ちた子猫なのかはわからないけれど、やわらかなサバトラの毛並みと淡いグリーンの瞳は懐かしい感じがした。
「僕のうちにおいで」 ビックリしたように猫は手を突っ張ったけれど、それはほんの一瞬だけだった。

 おっかなびっくりの様子で、パフパフした肉球でためらいがちに僕の手に触れてくる。
「オイラでいいのかにゃ……?」
 オドオドと「ごめんにゃ。鰹節を食ったのにゃ」と続けるので、笑いながら「かまわないよ」と僕は答える。

 頬を寄せると、やわらかい毛はお日様の匂いがした。
 どこかに落としてしまった幸福みたいに、懐かしいぬくもり。
 ふっと僕らを包んでいた空気が変わる。
 これもひとつの縁だろう。

 気がつくと僕は、人がいきかう狭間橋の真ん中に立っていた。
 ザワザワと人の営みの声があふれている。
 僕は、いつもと同じ日常に戻ってきた。

 狭間橋の向こうに、住宅街が見える。
 帰宅を急ぐ人の流れも、ありふれた日常だ。
 僕が迷い込んだ、不思議な場所はどこにもなかった。

 だけど、これは夢ではない。
 狭間橋から連れ出した猫が、僕の腕の中でゴロゴロとのどを鳴らしていた。

「一緒に暮らそう」
 この子のいる場所を、僕の帰る場所にしよう。
 ゆっくりでいい、僕の居場所をつくっていける気がした。
 確かめるようにあたたかな猫の身体を、僕はそっと抱きしめた。

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美味しい関係 

短編集 ふんわりと

 あの人とつまらないことでケンカをした。
 原因はポテトサラダだ。リンゴを入れるか、入れないか。たったそれだけなのに。
 ケンカに発展するとは思ってもみなかった。
 でも、問題の根本は別にあるのだけれど。
 発端は、あの人の転勤だった。
 七月の終りに「突然だけど九月に県外に転勤が決まったんだ」ととってつけたような理由でプロポーズされた。あきれるような嬉しいような、表現しにくい気持ちになったけど、付き合いも三年目を迎えていたし、離れるのが嫌だったから、うんと私もうなずいた。
 そのままバタバタと慌ただしく準備して、転勤に合わせて忙しく結婚した。
 普通ならこれでハッピーエンド。
 これからはじまるのは、幸せな生活……のはずだったのに。
 なぜだろう?
 幸せいっぱいとは言い難い。
 もちろん不幸なんかではないのだけれど、何かがかみ合わない。
 荷物をほどいて、毎日の生活が軌道にのってくると、付き合っている頃には気付かなかった発見が色々ある。
 良いことも悪いことも両方あるけど、目につくのは悪いことだ。
 ここ最近のケンカの原因を思い返すと、ため息しか出ない。
 心の準備も不足していたし、自分以外の誰かと暮らすのって、本当に難しいと思う。
 本当に、取るに足りない小さなことが気にかかってしかたがない。気にする方がおかしいぐらい、小さな差異が原因になる。
 あの人の一挙一動が、小さな棘のようにチクチクと刺さるのだ。
 昨日の夜だって、本当に小さなことだった。
 サラダを作ろうと思って丸ごとジャガイモをゆでている時に、私がリンゴのウサギを作ったことが、あの人は気にいらなかったのだ。
「なんでそんなことするわけ? サラダに入れられないだろ?」
「え、それ、純粋に嫌いなの」
 私は個人的に、ポテトにまみれたリンゴが嫌いなのだ。シャクリとした爽やかなリンゴの食感にまとわりつく、マヨネーズで和えたポテトのねっとりした感じは、どうにも受け付けない。
 リンゴはリンゴとして、サラダはサラダで食べたい。
 でも、あの人はポテトが主体だと胸やけがするから、リンゴの酸味が中和していい感じになるのだと自論を展開して譲らなかった。
 別にどっちでもいい事だし、言い争いも嫌になって。
 あの人のリンゴをサラダ用に切って、自分好みに混ぜていいからねって出した。そうしたら、再び棘のある言葉が返ってきた。
「こっちは一日仕事してきたってのに、ホントに気が利かないよな。家で一日ゴロゴロしているだけなのに」
 ムッとした。確かに今の私は無職だ。
 引っ越したためしかたなく辞めただけで、私は持っている全てを手放した。仕事も、家族も、友達も、全部を手放したのに。
 親や友達にメールや電話はできるけど、気軽に出かける相手も見つけられず、一人になってしまった。会話をしようにも方言が違って、友達どころか知り合いすらできない。
 ハローワークも失業者ばかりがいっぱいで、仕事の登録数そのものが少ない。
 家事だって実家で母と一緒にやっていたから負担は少ないけど、一人で全部を手掛けるのは想像以上に手間取って疲れている。
 ひとりぼっちのまま誰にも相談できず、抱え込むしかないのに、それがゴロゴロ……?
「そこまで言うなら、自分一人で来ればよかったじゃない!」
 もう知るもんか。勝手にすればいいと言い置いて、私は寝室に逃げ込んで鍵をかけた。
 あの人はドンドン扉を叩いて「ゴメン」とか言っていたけど、私はすぐに顔を合わせる気分になれなかった。
 あの人の言葉の通りに、徹底的にゴロゴロすることに決めて、そのまま不貞寝した。
 朝起きると、あの人は仕事に出ていた。
 夕食を食べずに寝たから無性にお腹がすいてしまいう。音もなく、ガランとした台所のせいでよけいに飢えてしまった。
 あの人の使った食器は洗ってあった。
 ふと、テーブルの上に書き置きがあるのに気がついた。
「ごめん、言いすぎた」
 そう書いてあった。そっけないほど短くて、あきれると同時につい笑ってしまった。
 言い訳しないのが、あの人らしい。
 本当はサラダなんてどうでもよくて。
 きっと、仕事で行き詰っているとか、同僚の名前を覚えるだけで精いっぱいだとか、そういうことをわかってほしかったに違いない。
 そのぐらい私だってわかっている。
 でも、気持ちがささくれてしまうのだ。
 あの人も引越したばかりで、この土地に慣れていないのは知っている。仕事だって、内容やノウハウはわかっていても、まるきり違う場所なのだから初めましてと同じで、馴染むまで時間がかかるだろうし。
 家に帰っても私がいるから、独り暮らしの時とは違って自由になる時間や場所が減る。
 訳もなくイライラするのも仕方ないけど。
 だからって、私に当たらないでほしい。
 ついて来いって言ったのは、あの人なのだ。
 転勤と結婚で何もかも変ったのは、私だって同じ。私は属する会社も仕事もないから、ブラーンと宙ぶらりんのままなのが痛い。
 ゆらゆらと気持ちが揺れるばかり。
 話しても伝わらないけど手放したものは大きくて、なにもなくってうらやましいねってチクチクと言われたくない。
 私も大人げない調子でやさぐれていたところで、昨日のまま残っている鍋を見てしまった。
 蓋を開けると皮つきのジャガイモが、お鍋の底に冷たく沈んでいた。
 これ、どうしよう?
 しばらく悩んで、再び火にかけた。
 あたためないと、ジャガイモはうまくつぶれない。一晩水につかっていたので、ホクホク感は消えているかもしれないけれど、食べないままなんてかわいそうだ。
 さすがにサラダにする気になれなかった。
しばらく考え込んで、ふと思い出した。
 この前買った雑誌に、ジャガイモのパンが出ていた。部屋の隅に取り置きしたはずだ。
 探すとすぐにお目当ての雑誌が出てきた。
 チーズやレーズン、ニンジンやカボチャのパンの作り方ならすぐに忘れていただろうけど、ジャガイモのパンは印象に残っていた。
 レシピを確認して、簡単そうだったので嬉しくなった。我ながら単純だけど、イライラする時にパンを作るのって、かなり楽しい。
 思い切り叩きつけてやる、とほくそ笑む。
 ふっくらとしたビジュアルと、香ばしい香りを思い出し、なんだかウキウキしてきた。
 そういえば、ドライイーストは砂糖を食べて成長するんだっけ?
 イースト菌も人間も同じ。育つためには甘く優しい栄養が必要だと、誰かが言っていた。
 イースト菌が羨ましくなる。
 砂糖の甘さは率直で、言葉と違ってとてもわかりやすい。
 そんなことを思いながら粉類を混ぜ合わせ、潰したジャガイモと一緒にまとめた。
 ぬるま湯じゃなくて、ジャガイモのゆで汁を入れると書いてある。
 一晩浸かっていたから、ゆで汁にもジャガイモのエキスがよく出ているに違いない。
 溶かしバターとジャガイモのゆで汁を加えて、黒コショウも投入してこねあげていく。
 黒コショウを見て、またムカッとする。
 私はスパイス系が好きなのでマッシュポテトやサラダにも黒コショウやスパイスを使うけど、あの人は癖のある物が嫌いなのだ。
 スパイスは自分が食べる物だけにかけているのに、香りがきついと実に嫌な顔をされる。
 あの人に食べろなんて言ってないし、絶対に言うつもりもない。
 だけどあの人は「ありえない」なんてボソッと言う。
 私が食べているのを見るのも嫌って、かなり重症。
 愛情が消える訳じゃないけど、どうでもいい人じゃないから、その言葉の棘を大きく感じてしまう。きっと本当に言いたいことは、違うはずだけど、わざわざ突っかかってくる。
 わかってる。あの人の甘えを、サラリと聞き流せない私も重傷。
 結婚前は、そんなこと言われなかったから。
 やっぱり腹が立ってきて、パン生地をこねる手にも力が入る。
 思い切り私の怒りを叩きつけても、パン生地は偉大だ。イライラも腹立ちもそのまま受け止めて、どこまでも丸く大きく育つのだ。
 パンって不思議。安らいだ日よりも、苛立つ日においしくなる。
 感情すべてを叩きつけた今日のパンは、見事なほどふっくらと焼き上がるに違いない。
 出来上がりを想像すると嬉しくなる。
 発酵させる待ち時間も、実は好きだ。
 ゆっくりゆっくり大きくなる姿はかわいい。
 そっとオーブンレンジをのぞくと、ジャガイモのパンなんて初めてだけど二次発酵もうまくいったみたいだ。あとは二百度に温めたオーブンで、二十五分間焼くだけ。
 プニプニした生地をセットして、焼き上がりを待ちながらチャイでも作ろうかと考える。
 私の大好きな香辛料。ズラリと小瓶が並んでいるだけで、幸福感が湧いてくる。
 カルダモン、シナモン、クローブ、ジンジャーをたっぷり入れて、スパイシーな紅茶を楽しむのは私だけの幸せ。
 あの人の大嫌いな物を、あの人のいないうちに満喫してやるのだと心に決めた。
 その時。
 ピンポンと玄関のチャイムが鳴った。
 誰だろう? こっちには知り合いもいないし、宅急便だろうか?
 いぶかしがりながらもインターフォンのモニターを見ると、女の人が立っていた。
 年齢は私と同じぐらいだけど、少女めいた可愛らしい顔立ちをしている。
「どなたですか?」
「隣の佐藤です」
 お隣さん? 引越のバタバタで記憶があいまいだけど、確かに挨拶をした気がする。
 アパートの全世帯を急いで回ったし、顔を合わせたのは一度だけだったからすぐに思い出せなかった。なんだろうと思いながら扉を開けると、彼女は恥かしげに頬を染めていた。
「あの、突然ですけど、食べてください!」
 勢いよく差し出されたのは、お皿にのった手作りのアップルパイだった。
 美味しそうだけど、丸々ワンホールはかなり大きい。目をパチパチさせる私に、彼女はボソボソと言った。
「私……お菓子を作るのが趣味なのに、うちの人はリンゴは生がいいって不満ばっかりだし、シナモンの匂いが嫌いだって言うから、家に置いておけなくて。この前あなたをスパイス売場で見かけたから、こういうのも平気かもしれないと思って」
 私はビックリしてしまった。自分と同じ悩みを持っている人が、目の前に突然現れた。
 私が言葉を失っているのを誤解したのか、すみませんと彼女は謝った。
「嫌がられるのがわかっているのに、趣味だからって続けるのも変ですよね。でも、どうしても作りたくなって。私も八月に引越してきたばかりで、他に贈るあてもないんです。嫌いなら嫌いだと言ってくだされば……」
 小さな声でモゴモゴと付け足すので、思わず微笑んでしまった。真っ赤になってうつむいている姿がとてもかわいらしい。
 私と似た状況にいる人がすぐ近くにいたなんて、本当に不思議な気分だ。
 アップルパイを差し出す彼女の手は、プルプルと震えている。
 私はそっとそのお皿を受け取った。
「ジャガイモ、好きですか?」
 ありがとうと言うつもりだったのに、そんな台詞が口から飛び出ていた。
 当然ながら、彼女はポカンとした。
 言いだした私自身もビックリしていた。
「えっと、今、パンを焼いてるんです」
 どこから説明していいかわからなくて付け足すと、彼女は首をかしげる。大きな目がハムスターみたいにクリクリしていた。
 喧嘩ばかりでやさぐれた私と違って、彼女からは初々しい新婚さんの匂いがする。
「パン、ですか?」
 不思議がる声もかわいいなぁと思ったら、腹が決まった。大きなアップルパイに、大きく育ったパンって、なんだかいい感じだし。
「ジャガイモのパンです」
 そう言って胸を張る。
 誘ってなんぼ、だよね。断られたら「残念だった」で終わらせればいいのだ。
「ジャガイモのパン?」
 キョトンとしているから、私はうなずいた。
「ええ、ジャガイモのパンです。もうすぐ焼き上がるけど、私しか食べないから一緒にどうですか?」
 真顔で言うと、彼女は更に驚いた顔になる。
「あなたしか食べないんですか?」
「ええ。私しか食べない、かわいそうな好物なんです。お暇なら一緒にどうですか?」
 彼女は自分のアップルパイを見つめながら「かわいそうな好物……」とポツンと呟いた。
 そして、ふふふと笑った。
「私、お邪魔してもいいですか?」
 アハハと笑って私はうなずいた。
「もちろん。私もパンと同じで、ひとりぼっちのかわいそうな奴ですから」
「私もアップルパイと同じで、ひとりぼっちでかわいそうなんです」
 私たちは顔を見合わせてひとしきり笑い合った。声をあげて笑うなんて、ひさしぶりだ。
 ひとしきり笑った後で、ごちそうになりますと言って、彼女は頭を下げた。
 初チャレンジだから味の保証はないですと言って、私も頭を下げた。
 顔をあげて目が合うと、微笑みが自然にわいた。側にいるだけで安らぐ人だと思う。
 どうぞ、と彼女を部屋に招き入れる。
 香ばしい焼き立てパンの香りも、新しいつながりを歓迎していた。
 ようこそ、甘い笑顔の可愛らしいお隣さん。
 ひとりとひとりが集まると、きっとふたり以上の楽しい時間になる。
 今日から私たちは美味しい関係。

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月が見守る夜に 

短編集 恋の卵

 丸い月が出ていた。
 青白いほどに透き通った光が、シンシンと降り注いでくる。
 夜風が頬をなでて過ぎるから肌寒さを感じ、校舎の玄関を出るなり私は身をすくめた。
 そういえば、もうすぐ中秋の名月だ。
 どこまでも秋だなぁ~と思ったとたん、ふわっと後ろからジャージを頭にかけられた。
 びっくりして振り向くと、拓海がいた。
 同じ歳だし、近所に住む貴重な幼馴染だ。
 遅くなったから独りで帰る事が不安だったので、拓海が当たり前のように私の隣に並ぶからホッとして心が緩んだ。
「部活、終わったの?」
「お前こそ、文化祭の準備、終わったのか?」
 気にかけてくれているのがわかる口調だったから、自然に笑顔がこぼれてしまう。
「うん」とうなずくと、そっか、と拓海はほがらかに笑った。
 私の通っている学校は模擬店などを行わず、展示と舞台発表がメインだ。
 大がかりな全校集会が行われ、クラス代表が一堂に集まってくじ引きで割り振りを決める。展示になるか舞台発表になるかは運次第。
 体育祭がない代わりに力を入れていて、年間ハイライトとなる行事なのだ。
 そのためこの時期になると、月が出る時間でも校内に残っている人間が多い。
 本格的に準備をしていると居残り必須で、今日も今日とて見上げるとまだ灯りがついている教室もあった。
 私のクラスは演劇だから早めに帰れるけれど、展示に当たったクラスは施錠間際まで残ることもある。迷路を作る事に決めたクラスはもっと大変で、部品を体育館で作成し、ぜ前日に一気に組み立てるそうだ。
 日の高いうちに三週間は帰れないから、伝統行事だからとはいえ、保護者からクレームが来ないのが不思議だ。
 私の親はそれほど過保護ではないから迎えには来ないけれど、学校から出るときにメールをするように念を押されていた。
 それにしても。時計を見ずに準備をしていたので、拓海の部活終了時間と重なるなんて運がいい。
 ジャージを返そうとすると「寒いんだろ?」 と笑われてしまった。「羽織れよ」と気さくに促すので、ちょっと戸惑ってしまう。
 拓海のジャージ。
 さっきまで部活で拓海が着ていたはず。
 ちょっと悩んでいたら私の手から奪われ、早く着ろと肩にかけられる。
 ほんの一枚はおっただけで、夜風の肌寒さが一気に消えてふんわりと温かかった。
 肩にかけたままだと落ちそうだから袖を通すと、ぶかぶかで私にはものすごく大きい。
 細身に見えていても、拓海と自分の差を実感してしまった。
 小学校を卒業する頃は私のほうが大きかったのに、なんだか悔しい。
 いつの間に、こんなに体格の差が開いていたのだろう?
 チラッと横顔を盗み見て想像以上に大人の顔に近づいていたのに気付き、ドキリとする。
 幼馴染で、同級生。
 家も近所で、親同士の交流もある。
 幼稚園から高校に至る今まで、拓海とはずっと同じ学校に通っていた。
 気やすく話せるけれどお互いにいろいろ知りすぎていて、なんでも冗談にしてしまえるほど近くて遠い仲だ。
 友人関係を続けられる事が、心から不思議だと思う。
 引っ込み思案な私と違って、拓海は太陽みたいに人の輪の中心にいて、ずっとキラキラしている。それに基本的にサバサバしているから、言葉もうまく出せずに思い悩む私とはまるで違う。そう、下級生に告白されたけど断っちまった、なんて話も平気で私に聞かせてくるぐらい、あっけらかんと生きていた。
 男女交際はどうでもよくて、バスケ部で走っているのが楽しいって笑っているから、健全な男子高校生らしい気もするし、少しずれている気もするし、少し悩ましいところだ。
 動きの止まったまま思考を巡らせていたら、拓海はちょっとだけ肩をすくめて、そのまま先に立って歩きだす。
 一人で帰りたくないので、私は急いでその背中を追いかけた。
 隣に並ぶと、拓海はムッとした表情でちょっと頬を膨らませていた。
「確かに使用済みだけどさ。休憩時間にしか羽織ってねぇから、そこまで汗臭くないぞ。そんなに嫌がらなくてもいいだろ?」
「え? ち、違うよ、そんなこと思ってない」
 慌てて否定したけれど、嘘つけ、と拓海は笑う。こんなときキラキラ光って見えるから、私は少しドキドキする。
 付き合ってはいないのに、我ながら過剰反応だ。拓海は幼馴染で友達だと自分に言い聞かせる。だけどお互いに、お互い以上の親密な異性はいないし、微妙な距離感だと思う。
 ちょっぴり切なくなるけど、拓海はいつもナチュラルだ。
必要以上に意識しているのが私だけみたいで、時々胸が痛くなるのは私だけの秘密。
 妙にぎくしゃくしてしまうより、こうして一緒に歩けるだけで嬉しいからこれでいいの
「それで、出し物って何?」
 いきなり問われたけどピンと来なくて、ん? と私は首をかしげた。
「演劇のこと?」
 そ、と軽く拓海はうなずいた。
「お前のクラス、はりきってるよな~俺のクラスはパパッと二曲歌って終わり。本番までに音合わせも一回ぐらいはやろうぜ~なんて、いい加減だからさ」
 なにそれ? と思わず笑ってしまった。
「持ち時間が二十分もあるのに、二曲でどうするの? あまっちゃうよ?」
 クラスによって真剣さに差があるのは当然だけれど、ここまで違うと笑うしかない。
「そりゃ、おまえみたいにがんばってるクラスに譲る。細かいことは担任も気にしてないみたいだから、いいんじゃね?」
 そういえば拓海のクラス担任は、今年赴任してきたばかりだった気がする。
 九年も移動なく文化祭に携わっている私のクラスの担任は、書きおろしのシナリオを用意して監督さながら付き添っているのに。
「うちのクラスはオリジナルの演劇だよ。黒猫が満月に願って、人間の女の子になるの」
 星が叶える願いは代償なんていらないのに、月はひとつの願いにつき大切なものをひとつ捧げる。
 黒猫にあるのは自分の命だけだった。
 大好きだった人間の男の子が引っ越してしまい、もう一度だけ逢うためだけに人間になっても行方を捜すのは難しくて。
 最後はちゃんと会えるけれど、朝が来ると月の魔法が解けてしまう。
 黒猫は夜に輝く星のひとつになって、男の子を見守り続ける絵本みたいなストーリー。
 少し切なくて、悲しいけど暖かい物語。
 でも、ハッピーエンドとはとても言えないから、台本を読んだときに悲しくなった。
 いいお話だし力作なのはわかるけれど、お芝居の中ぐらいハッピーだねって優しくて楽しい気持ちでいっぱいで終わればいいのに。
 月よりも星に願い、小さな幸せがいっぱいあふれたらいいのに……そうすると山も谷もないつまらないお話だと思われちゃうのかな? なんて考えているとよけいに悲しい。
 知らず気落ちしてしまった私の頭を、拓海はポンポンと軽く叩いた。
「お月さまって夜のイメージで、おまえみたいな脳内お花畑にはむいてないからな」
 あんまり深く考えるなと言われて、うんとうなずくしかない。
「で、なんの役?  こんなに遅くまで練習してるなら、ちょっとは期待してもいいよな?」
 明るい声で問いかけられて、私はキョトンとしてしまう。
 できるだけ隅っこにいたい私が役者になっていたら、登校拒否を起こしていると思う。
 そのぐらい拓海も知っているはずなのに、気分を変えようと気を使ったのならものすごく不器用だ。
 そう思ったらなんとなく気持ちが緩んだ。
「私? 私は裏方。衣装は絶対に見てね」
 力作だよ! と黒猫のワンピースについて語りだすと、ありえね~と拓海は嫌がった。
「俺が衣装なんて見てどうすんだ? お前が出るならって期待してたのに、出ないのかよ」
 裏方があってこその舞台なのに、バカにされた気がして私は口をとがらせる。
「大根役者だって、笑う気だったでしょ?」
「言わねーよ」
「嘘。へたくそーって絶対に笑う」
「どうしてこういうときばっかり、おまえ、強気で断言するのかなぁ?」
 まったくもう、なんてぼやいてるのがおかしくて、思わず声をあげて笑ってしまった。
 拓海の言葉にのっかっていると、胸の奥がポカポカしてくる。
 いつのまにか悲しい気持ちが消えていた。
 特別なことは話さないのに、こうして会話している時間は心地いい。
 他愛のない会話っていいな、と思う。
 肩を並べて歩いているうちに、いつの間にか私の家が見えた。あと十メートルもまっすぐ歩けば、私の家の玄関だ。
 拓海はこの角を右に進むので、ここでお別れになる。
 もう少し一緒に歩きたい気分だったけれど、それは友達を越えた希望になりそう。
 だから、私は立ち止まる。
「また明日。ジャージ、ありがとう。洗って返すね」
 笑顔でお礼を言うと、不思議そうに拓海は私を見た。
「遅いし、すぐそこだから門まで送る」
 いいよ、悪いし。
 そう言いかけたけれど、不意に伸びてきた拓海の手が私の頬に触れた。
 不意打ちに、心臓が止まりそうだった。
 ゴツゴツして長い拓海の指が動く。
 耳からこぼれ落ちていた髪を指先でそっとすくい、そのまま頬をなでるように後ろに払う。くすぐるようななにげない動きだけど。
 私とは違う体温に、チリ、と胸が焦げた。
 思わず息を飲んで無意識に後ろに逃げかけた私の肩を、拓海の大きな手が押さえて止める。しばらくは無言で、ジーッと私の顔を見つめていたけれど、ポツンとつぶやいた。
「お前さ、こんなに美人だったっけ?」
 その瞬間。カーッと一気に血が上り、顔が真っ赤になっていくのがわかる。
「よくもそんな恥ずかしい台詞を……」
 いきなり何を言いだすのかと思ったら、真顔でからかわないでほしい。
 バカバカと思い切りはじきたかったのに、弱々しくかすれた声しか出なかった。
 美人なんて、そんなの誰にも言われたことがなかった。褒められて嬉しいけれど、不意打ちで言わないでほしい。
 私だけが意識していると感じていたから、このまま思いあがってしまいそうだ。
 思わずつま先を見つめて、つられたように本音をこぼしてしまう。
「拓海こそ、そんなにカッコよくなってずるい」
「バッ! お前こそ、よくもそんな恥ずかしい台詞を……」
 最初に言ったのは拓海なのに怒るなんてひどい。そう言いたくて顔をあげると、視線がからんだ。
 怒ってなんかいなかった。
 私と同じように拓海も真っ赤になっていた。
 ドキドキしている心臓の音が、ここまで聞こえてきそうなぐらい動揺している。
 こんな表情、初めて見た。
 そう思った途端、スルンと言葉が出ていた。
「恥ずかしくないよ、本当のことだから」
「お、俺だって嘘なんて言わないけど……」
 本当ならなおさら恥ずかしい状況だと、言いあった後で気付いて、お互いに黙りこむ。
 それ以上の言葉もなく、落ち着かない沈黙の中で、頬を染めた私たちは立ち尽くすだけだ。動く事ができなかった。
 家はすぐそこで、帰らなくてはいけないけれど、帰りたくない。
 冴えた月光に照らされ、お互いの表情が夜の中で鮮やかに浮き上がる。
 心まで射しこむ、夜の魔法みたいだった。
 ずっと一緒に育ってきた。
 私の好きは、拓海だけに向かっているけど。
 このままなにも言わず笑い話に変えて、友達でいればお互いに傷つくこともなかった。
 だけど、ほんの一歩。
 ほんの一言あれば、私たちの関係は変わる。
 友達のままでいると、拓海が私以外の人を選ぶのを見ることになる。
 特別な関係になると、今までみたいな気安さが壊れるかもしれない。
 失うものと得るものは、どちらを選んでも等しい大きさで迫ってくるから、体が震えた。
 本当に怖いのは、どっち?
 私は拓海だけを見つめていて、拓海は私だけを見つめていた。
 今が選ぶ時だと自己主張する心臓はうるさくて、気持ちごとはじけ飛んでしまいそう。
 スルリと夜風が間を過ぎていく。
 もう、逃げられない。逃げてはいけない。
 次の言葉を探して立ち尽くす私たちを、青白い月がそっと見守っていた。

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イチゴミルク 

お題からのツイノベ風のSS集

 まだ来ない。
 チョコバナナのクレープをかじりながら逃げた日からずっと、鬼瓦さんが私の勤めるクレープ屋さんに顔を見せない。
 最初は仕事が忙しいのだと思っていた。
 だけど一週間が過ぎるようになると、さすがにため息がこぼれ落ちてしまう。
 どうしたんだろう? 鬼瓦さんの事が気になって仕方ない。
 あんなやり取りをした後に顔を見せなくなるなんて、なんだかひどいって思うし。

「鬼瓦さん、最近みないわねぇ」
 なんて同僚の言葉にも、そうですねぇと乾いた返事を返すしかない。
「陽菜ちゃん目当てだと思っていたのに」

 なんの気なしにつけたされた言葉に、ドキンとした。
 そんなまさか、とも、違ったみたいですね~とも、返す言葉が浮かばない。
 私の妄想が勝手に膨らんでいるだけじゃなくて、他の誰かの目からも鬼瓦さんの行動はそんな風に見えていたんだと思うと、嬉しいような面映ゆいようなくすぐったさがわいてくる。
 だけどそのぶん顔も見ることができない今の不安が、大きく育つもどかしい感じが胸を塞いでしまう。

 だって私は、鬼瓦さんの本当の名前も知らないのだ。
 もし、どこかで見かけたって「鬼瓦さん!」なんて、勝手につけた失礼なあだ名では呼びかけることもできない。
 モゴモゴと口の中でまとまらない言葉を転がすしかない私に、同僚は気がつかないのかトッピングのイチゴを手際よくカットしていく。
 さすがはベテラン。飾り切りも鮮やかな手並み。
 私は横で、おっかなびっくりペティナイフをあつかっている。

 そう、今日から季節の限定メニューが切り替わるのだ。
 コロンとした可愛いフォルムを半分にし、切りこみを入れるとハートの形になる。
 家でも練習してるけど、慣れるまでもう少し時間がかかりそうだ。
 大粒の甘いイチゴを惜しげもなく使って、特製のミルククリームもたっぷりとクレープで包み込み、春だけの季節限定バージョンは包み方が違うらしい。
 可愛いハートを見せつけるようにと説明しながら、店長は「青春時代の恋の味~♪」なんて鼻歌交じりに見本を作ってくれた。
 新米だから上手にできませんって、買いに来てくれるお客様には関係のないことだもの。

 手もとに意識は集中させていても、やっぱり鬼瓦さんの事は気になった。
 季節限定のイチゴクレープの発売に合わせて、エプロンの色が今日から変わる。
 白のブラウスに、イチゴ色のフリル・エプロン。
 可愛いデザインに違いはなかったけれど……制服の変更はただの偶然なのだけどタイミングがタイミングなだけに、もう二度と鬼瓦さんには会えないような気がしてしまう。

 今日から私は、鬼瓦さんの好きなチョコバナナにはなれない。

 ふぅっと何度目かのため息を落とした。
 まぁ、もともとお客様とクレープ屋の店員で、それ以上でもそれ以下でもなかったのだけど。
 真っ赤に熟した甘酸っぱいイチゴの香りがちょっぴり切ない。

「あ、鬼瓦さん」

 なんの気なしに放たれた同僚の声に、肩が跳ねてしまう。
 必要以上に驚いてぺティーナイフを取り落としたことに、私自身が動揺してしまった。
 会いたかったはずなのに、今すぐどこかに逃げだしたい。
 オロオロしているうちに、フードコーナーに現れた鬼瓦さんはズンズンとわき目もふらずクレープ屋にやってきた。
 その目はカウンターに立った同僚を通り越して私を見ていた。

「ほんと、わかりやすい人ねぇ」
 振り向いた同僚が、私を見て「あらま」ともらす。
「ほんと、わかりやすい人たちねぇ」

 うふふと笑って私の肩を押すので、カァッと頭に血がのぼるのがわかる。
 どうしていいかわからないから、こういう気づかいにはなれない。
 鬼瓦さんはカウンターの前に立つと私の顔を見た。
 不思議そうに何度もまばたきするので、内心パニックになっていたけれど逃げ出すことはできない。

「あの! チョッチョ、チョコバナナですか?」
 すぐに作ります―とテンパッテいたら、まじまじと私を観察していた鬼瓦さんは、フッとはにかむように笑った。

「あんた、イチゴみたいだな」

 今日は季節のお勧めで、と付け足されて、頭の中が真っ白になった。
 いつものチョコバナナからイチゴミルクに変わるのは、私の制服が変わったから……なんて、一度思ってしまうと必要以上に意識してしまう自分が恥ずかしい。
 ううん、恥ずかしいのは挙動不審の私を見て、鬼瓦さんが嬉しそうにしているからよけいになんだけど。

 思わせぶりな行動するなんて、鬼瓦さんのバカ。
 ちょっぴり拗ねた八つ当たり気味な気分で、慣れない季節限定クレープを作って、ぎくしゃくした動きでクレープを渡す。
 鬼瓦さんから返ってきたのは、クレープの代金と一枚のカード。
 それには連絡先と名前が書いてあった。

 姫川 雅。
 ひめかわ まさ、とルビもふってある。
 鬼瓦さん、本名は姫川なんだ。
 なんだか茫然としてしまう。
 似合わない、なんて言ってはいけないけれど、名前まで顔とのギャップが大きい。
 どんな顔で本名を呼べばいいか、頭を悩ませてしまった。

「修羅場、昨日で終わったから」
 それは仕事のことだとすぐにわかった。
「今度、飯でも一緒に……連絡、待ってる」

 珍しく歯切れの悪い台詞。
 顔をあげると鬼瓦さんは背中を向けて、いつもよりも足早に去っていた。
 早い。あっという間に見えなくなった。
 競歩競技に出場できそうなスピードに、同僚がクスクスと笑いだした。

「見かけによらず、可愛らしい人ねぇ」
 そして、コツン、と肘で小突かれる。
「陽菜ちゃんも、可愛らしい人ねぇ」

 からかわれても、返す言葉が思い浮かばない。
 心臓がおかしいぐらいバクバクしていた。
 今は通りすがりのお客様とただの店員だけど、ほんの少し勇気を出せば近づける。
 それは簡単なようで、ものすごく難しいことだから。
 私は休憩時間に、季節のイチゴミルク・クレープを買った。

 鬼瓦さんの連絡先は、手の中にある。
 ひとつ、ひとつ、コミュニケーションアプリのトークにメッセージを打ちこんでいく。
 選ぶ言葉に迷ったら、一口クレープをかじった。

 ふんわり甘いミルククリームに隠れた、甘酸っぱい果実。
 一粒だけ顔を出す、真っ赤なハートは色鮮やかで。
 イチゴミルクのクレープは、恋の味がする。

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ハッピー・ニャンコ 

詩集 ヤマアラシのジレンマ5

桜の花も ほころびはじめ
僕は気ままなハッピー・ニャンコ

おはようのかわりに
ニャァと鳴いて 見送るよ

コロリころころ ひだまりで
あったかいねと 身体を伸ばす

おひさまはこんなに優しいのに
通り過ぎるのは 慌てたような駆け足ばかり

折り目のついた真新しい服
ツヤツヤと輝いているカバン
はずむ足取りが向かうのは 初めての場所

借りてきたような よそ行き顔も
これからゆっくり馴染んでいくんだね

いってらっしゃい 新しい門出を迎えたアナタ

おめでとう おめでとう 恐れと期待を胸に
踏み出す一歩の 大きさを知るのはアナタだけ

くるりクルクル 狂おしいほど
桜の花もほころびはじめ ひたすら春は忙しいけど

僕は気ままな ハッピー・ニャンコ
おかえりのかわりに ニャァと鳴いて迎えるだけさ

それほど願いは多くないけど 少なくもなくて
僕の上にもアナタの上にも おひさまの祝福があたたかにふりそそぎますように

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幽霊のチェス盤 

お題からのツイノベ風のSS集

 最近、隣のおじさんがおかしい。
 いつも早起きだったのに正午近くになって欠伸まじりに起き出すと、のそのそと洗濯物を干している。
 気まじめすぎるほど生真面目なのに、ゴミステーションの掃除当番も遅刻したので体調でも悪いのか心配になって聞いてみると、夜が楽しくて仕方ないという。
 友達ができたのでついつい夜更かししてしまうんだ~ととても嬉しそうに語ってくれた。
 でも、おじさんが寝坊し出してから、夜になって隣の家に出入りしている人は見たことがない。
 不思議に思って尋ねてみると、骨董屋でチェスを買ったら勝負相手も憑いて来たらしい。
 いい勝負なんだと、おじさんはものすごく嬉しそうだけどさ。
 気にしてないみたいだけど、その友達って幽霊だよね?
 普通に考えて怖いんだけど……チェス盤に塩を盛ってもいいかな?

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猫乃あお

Author:猫乃あお
はじめまして!
基本はほっこりで、自分ペースで楽しんでいます♪
恋愛・日常・友情などをテーマにした、オリジナル小説や詩も掲載しています。
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※無断転載・無断引用を固く禁じます。

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